2 スライム?!
翌朝、馬車で一夜を過ごしたエル達は、出発を告げに村長カークの家に来ていた。
「カークさん。調査が終わったら戻ってくる予定ではありますが、僕達はロックハードで用があるので、しばらく帰って来なくても探さなくて大丈夫ですからね。」
「正直言って助かります。実はもう村から人手を出す余裕がなくて…」
小さい村だし、ラフトとレイトの2人を出しただけで限界だったんだろう。
「気にしないでください。僕達は冒険者ですから。」
本当はおれ以外は冒険者ではないんだけどね。
「分かりました。お気をつけて!」
あと、これは言っておかないとな。
「あー、それとラフトさんとレイトさんの事なんですけど…」
「いえ、彼らのことは分かっております。エルさん達が依頼を知らないと言う事はあの2人は途中で…」
「そうですね。おそらくは…亡くなっているかと。」
「…私達も、そして2人も覚悟はしていました。それが分かっただけでもよかったのです。エルさん達もどうかお気をつけて。」
「ありがとうございます。」
おれ達はロックハードへ出発した。
御者台にはシーナとエル。
ここからは念の為、シーナが御者の時はエルが付く。
アストンの時は…自分で身を守れるだろう。
「ご主人様、石スライムってそんなに危険なんですか?」
「うーん。単体ならそんな事ないよ。比較的大人しいスライムだし、硬くて剣がダメになるから普通は見つけても放置されるぐらいさ。」
「単体なら…と言う事は沢山いると危険になるんですか?」
「まあね。スライムは魔力のこもった物を体内に取り込んで吸収するから、大量にいると薬草や、下手すると動きの遅い魔物なんかが取り込まれるんだ。」
「こ、怖いですね…」
足を怪我した剣士が、スライムに飲み込まれる事はたまにある事件だ。
「まあ、うちのメンバーなら魔力の多い僕とアストンが優先的に狙われるから、シーナとメローは安全だけどね。シーナは《健脚》があるから1人でも逃げ切れるよ。」
「ほっ…って、ちょっと安心しちゃいましたけど、ご主人様の命が1番大事なんですからね!」
「いや、本当に石スライムは大した事ないから気にしなくていいよ。」
エルもアストンも石スライムに遅れをとるような魔法使いではないので警戒はしていない。
硬くて武器がダメになるので、面倒な相手だが、魔法使いにとってはカモである。
(あんまり多いと魔力が足りなくなる可能性があるから、魔力水を追加で作っておこうかな。どんだけ貯めてたっけ?)
「それより、問題なのは石スライムにおびき寄せられる他の魔物なんだよ。」
スライムは生態系の最底辺だ。
つまり、多くの魔物の餌となる。
「石スライムが好きな魔物がいるんですか?」
「いる。石スライムは硬いから餌にしてる魔物の種類は少ないけどね。」
石スライムや、毒スライムは、スライムの中では餌にされにくいが、それでも餌にする変わり者はいる。
「とくにヤバいのがロックリザードだね。」
「ロックリザード!」
ロックリザード。
ロックハードを代表する有名な魔物だ。
ドラゴンの一種だが飛べないため、分布域が狭く同じ場所に留まる。
動きはゆっくりめだが、ドラゴンらしく魔法耐性が高く、他種より鱗が硬くて物理耐性まで高い。
冒険者ギルドでは、討伐依頼はA級。B級パーティなら複数で挑む必要がある。
「あのぉ、ご主人様って確か…」
「E級だよ。」
「えぇ!どうするんですか!勝てないじゃないですか!」
「まぁ、何とかするよ。はははは」
「…本当に大丈夫なんですか?…信じてますからね…」
確かに、普通はドラゴン相手に魔法使い2人は非常に厳しい戦いだ。
(おれじゃなかったら無理だろうな。…あ、でもアストンの本気の雷魔法なら貫けるかも?後で聞いてみよう。)
シーナとお喋りしながら、森を進んでいくと、だんだんと木々がまばらになって来た。
道もほとんど消えかかっている。
代わりに増えるのは大きな岩だ。
(どの岩にも魔力を感じる。かつての戦いで吹き飛ばされて来た岩か?)
「ご主人様。道が石だらけになって来ました。そろそろ馬車を降りた方がいいかも知れません。」
「仕方ないね。ここからは歩いて行こう。メロー!アストン!」
「「は〜い!(はっ!)」」
2人にも事情を説明して、馬車から降りてもらう。
「ふぅー。石だらけですごい馬車が揺れてたのでお尻が痛くなっちゃいましたぁ。」
「私はこの程度なら慣れていますが、これ以上は車輪がもたないでしょうね。」
エル達の馬車はかなりボロいので、耐久性には期待できない。
「しかし、ここに置いていくとロックハードでは野宿になりますね。」
「だね。だから馬車は持っていく。」
(シーナとアストンは平気だろうけど、おれとメローはちょっとキツイからね。)
「持って行くんですか?壊れてしまうのでは?」
「大丈夫。おれのアイテムボックスに入れる。」
「馬車をアイテムボックスに?!そんなに入るんですか?!」
経験豊富なアストンでも驚いたようだ。
「分からない。容量はたぶん大丈夫なんだけど、不安なのは口がな…」
エルのアイテムボックスは、市販のものに《詰め込み》で強引に魔力を詰め込んで拡張したものだ。
容量は大きいが、口は普通のリュックなので、どこまで大きいものが入るか分からない。
(とりあえずやってみよう。)
馬車を馬から外し、リュックの口を押し付けてみる。
「…吸い込みませんね…」
「吸おうとしてるのは感じるんだけどなあ」
(あれ?おかしいな?これは容量も足りてないか?)
「ちょっと待ってくれ。」
エルは念の為、リュックから中身を出していく。
魔力水の大瓶、魔力水の大瓶、魔力水の大瓶……そして魔力水の樽。
「エル様?!どんだけ魔力水を溜め込んでるんですか!」
なぜかメローがキレた。
「だって魔力切れは魔法使いの天敵だろ?」
「それにしても限度がありますよ!100本はありますよ!?」
「私でも使い切るには1年はかかるでしょうね…」
「そうかな?研究してると結構使うよ?ちなみに胸ポケットにも10本入ってる。」
「はぁ……ん?ちょっと失礼。」
アストンが何か引っかかったのか、大瓶を手に取った。
「これは!…とんでもない量の魔力が込められているのでは?!」
「ああ、その瓶は戦闘用だからね。戦闘中にちびちび飲んでる暇はないから、普通の魔力水の20倍ぐらい魔力を込めてある。ちなみに大瓶を一気飲みすると魔力酔いになって戦闘どころじゃなくなるから、3口ぐらいにするように。」
「は、はぁ。あの、試しに一口飲んでもいいでしょうか?」
アストンは興味津々のようだ。
「いいけど、魔力が減ってないなら一口にした方がいい。あと喉が焼けるような感覚があるけど気にしないで。」
(市販のものが"ほろよい"だとすると、おれのは"スピリタス"だからな。ワイルダーと戦った時も喉が焼けたなあ。)
「わかりました。それでは一口………おや?」
アストンが蓋を開け飲もうとするが、瓶から魔力水が出てこない。
「出てきませんね?」
(ん?どうしたんだ?)
「ちょっと貸してみてくれ。」
中に魔力水が入ってるのは確実なのだが、固まって出てこない。
(どうなってんだ?)
エルが瓶を割って中を確認しようとしたその時。
ツルンっ!
中から魔力水の塊が飛び出して来た。
「「「「???」」」」
エルのお手製 戦闘用濃縮魔力水は、スライムになっていた。
反応などいただけたら幸いです。
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