1 ルスト村
エルはワイルダーを殺せなかった。
戦っている時は本気で魔法を放っていた。
しかし、意識を失った相手にトドメを刺すことが出来なかったのだ。
(もしかしたら、戦っている時ですら無意識に力をセーブしていたかもしれない。)
目を覚ましたアストンが、既に自分の手は汚れているからと肩代わりしてくれた。
エルは、アストンがいなければワイルダーを逃していたかもしれないと自覚している。
だからアストンを信頼した。
(アストンから学ばないといけない事は多い。レオ兄も人を斬ったんだろうか…)
「馬車を壊したのは自業自得だし、賊達には歩いて帰ってもらう。僕達はこのまま村に向かう。」
「エル様。失礼ですが、今日はここで馬車の中で夜を越すべきかと。」
アストンが意見を出して来た。
「なぜだい?」
「まだ森の前ですし危険なモンスターは出て来ません。むしろこのまま森に入る方が危険です。それに4人いれば交代で夜番も出来ます。最初は私がやりますので。」
「確かにそれがいいかもな。この馬車はボロボロだし、小さな衝撃で壊れるかもしれないしね。メロー、シーナそれでいいかい?」
「「はい!」」
順番はアストン→メロー&シーナ→エルとなった。
のだが、アストンは1人で朝まで夜番をしてくれた。
「ありがとうアストン。それにしても僕と戦って体力も消耗してただろうに、よくもつなあ」
「すごい体力ですね…」
行商でそれなりに体力仕事をして来たシーナもびっくりしてる。
「奴隷としての生活に比べれば大したことありませんよ。それに私は《不眠》《疲労軽減》《体力回復》《魔力回復》を持っていますから。」
「そうか…苦労したんだな…本当に父がすまない。」
「あぁ!これは研究者の時に身に付いたスキルです。これが無ければきっと奴隷生活に耐えきれなかったですね。はっはっはっ。」
お前、どんだけハードな研究してたんだよ…
その後、おれ達は順調に道を進み、3日目の夕方に最後の村ルストに着いた。
「ここが最後の補給になるから、しっかり休んでくれ!僕とメローは村長にあいさつして来る。」
「かしこまりました!」
第一村人発見!
相当使い込んだ服を着ているが、ゴブリンとかじゃなく、間違いなく人間…だよな?
「あのーすいません。ルストの村の方ですよね?僕はエルと申します。この村で一晩泊めていただきたいのですが、村長の家はどこでしょうか?」
「き…き…」
「き?」
「来たーーーー!」
なんかすごい喜んでる?
第一村人の叫び声を聞きつけて、村人が集まって来た。
「ようこそ来てくださいました!私がルスト村の長をしております、カークと申します!」
村長の方から来てくれるとはラッキーだ。
「皆様の到着を今か、今かと待っておりました。」
「ん?僕達の到着を待っていた?」
アストンが杖を身構えた。
おれも念の為、左手をアイテムボックスになっているポケットに入れ、中のナイフを持つ。
おれ達の守護任命はまだ陛下からの許可も届いていない非公式のもの。
父やヴィルトンが民間人に漏らすとも思えないし、おれ達の来訪を知ってる者はいないはずだ。
実際、初めの村で名乗ってかなり驚かれたので、それ以降はエルとしか名乗らない事にしている。
「エル様は冒険者でいらっしゃいますよね?」
「まあ、そうですね。」
なんで知ってる?
「では、さっそく依頼の話をしますので、私の家まで。」
そう言って、どうどうと背を向けて歩き始めた村長カーク。
「(誰かと勘違いしているみたいだけど、悪い人では無さそうだしついて行こう。)」
「(ですね。ワイルダーの手の者なら、簡単に背を向けるはずがありません。)」
村長カークの家はボロかった。
というか、ルストの村の家はだいたいボロい。
「(なあメロー、この村は大丈夫なのか?)」
「(分かりません。館の情報だと東の森の村はどれも差異はなかったはずなんですけど…)」
明らかにルストだけ貧相なんだよな。
「どうぞ、こちらを…」
飲み物が出された。
うん。水だな。ただの美味しい水だ。
「ありがとうございます。」
「それで、ロックハードにはいつ行かれるので?」
「明日の朝には出発しようかと思っています。」
「おお!それはありがたい!」
ロックハード行きの人物?
誰と勘違いしてるんだ?
「村長さん。1つ言っておきたい事があります。」
「なんでしょう?」
「僕達がロックハードに行くのは私用です。この村とは何の関係もありませんよ?」
「え?」
「皆さんが待っていたのは、いったいどなたなんですか?」
「あ、あなた方はロックハードに発生した石スライムの駆除に来た冒険者ではないのですか!?」
どうやらおれ達の行く先には、厄介なモンスターがいるらしい…
反応などいただけたら幸いです。
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