15 どれい
「そんな訳で、無事ワイルダー達を倒したよ。」
「何が無事ですか!刺された箇所を早く治療しないと!」
「大丈夫。もう回復ポーションを飲んだから。」
「毒は?!」
「麻痺毒に対するポーションは買ってなかったけど、自力で解毒したから大丈夫。」
「ほっ。よかった…」
「ご主人様、ワイルダー達はどうなったのですか?」
「…ワイルダーは殺した。自分の身を守るためにね。」
「そうですか…」
ぎゅっ
メローがおれをそっと抱きしめてくれる。
戦闘が終わってからずっと緊張状態だった身体から力が抜けた。
花火魔法が暴発した時の事が思い出される。
(あの時はしばらく動けなかったんだよな。きっと今も知らないうちに無理をしてた。メローが付いてきてくれて本当によかったな。)
「ありがとうメロー、これからもよろしく。」
「はい!もちろんです。」
「他の方たちはどうされたんです?」
「彼らには手紙を持たしてヴィルトンの元へ返した。2度と僕やシルヴィ達に手を出すなと言ってね。」
ワイルダー以外の賊は本物の貴族の子息だった。
殺すと影響が大きい。
こっちには、ワイルダーへの依頼書があり、公表すればヴィルトンの立場は無くなる。
もう黙ってるしかないだろう。
(あとはヴィルトンが勝手に事態を収束させるために動くはず。せいぜい頑張れ。)
「分かりました。そちらのアストンさんはどうするんですか?」
アストンへ目を向ける。
「彼はおれの家庭教師、兼用心棒として雇う。」
「え?」
「アストン、メロー達に説明してやれ。」
ずっと後ろで黙っていたアストンが口を開いた。
「畏まりました。」
ーーーーー
アストン・ファーガソン 49歳。
魔法国エメリコ出身、火と雷の適正を持つ魔法使い。
彼は根っからの魔法研究家だった。
彼は特に雷魔法の研究に熱を入れているが、研究に行き詰まっていた。
理由は人材不足。
と言うのも、雷魔法は使い手が少なく資料が乏しい。
制御が難しく研究中の事故が絶えず、戦場ではフレンドリーファイアの確率も高い、日常生活にも不要。
好んで研究する人が少ないのだ。
仕方なく、1から10まで全て自分で行っていた。
そんな時、隣国のセレーナ王国のオーウェン伯爵家から子息の家庭教師の依頼が来た。
「私は忙しいのだ!」
最初は忙しさを理由に断ったが、ふと思い出す。
(オーウェン家には神童がいると聞いたな。)
伯爵家に、3歳で巧みに言葉を操り、魔法書を読む子供がいるという噂だ。
当時、セレーナ王国の第3王女にも似たような噂があり、話題になった。
(その神童への教育なら面白いかもしれない…)
だが、依頼は神童とは別の長男と次男への指導依頼だった。
(なぜ、三男だけ省くのだ?秘密にしておきたい理由でもあるのか?)
研究者らしく好奇心旺盛なアストンは、研究仲間でセレーナ王国の貴族の家庭教師の経験がある者に尋ねてみた。
「あぁ、オーウェン家は秘密主義な所があると聞いた事がある。その神童に特別な才能がある可能性はあるな。なんたって、あのヴァージル侯爵家の血筋らしいし。」
「なんだって!」
ヴァージル家は優秀な魔法使いを多く輩出している名家だ。
エメリコにもその名は轟いている。
その武力を信頼され、セレーナ王国とドルメキア帝国を隔てるブラン山脈の麓の一帯を任されている。
噂の第3王女も、母親はヴァージル家の長女だ。
神童の母は、ヴァージル家の6女、ノエル。
なんと、基本7属性を全て使えるらしい。
(行く価値がある。)
アストンは依頼を受けた。
結果は芳しくない。
ノエルは放任主義であまり話す機会がない。
逆に教育方針にやたらと口を出してくるダリアは鬱陶しい。
神童は隔離され、アストンが目にする事もない。
おまけに長男のレオナルドは全く言う事を聞かない。
魔法の才能がない訳ではないが、それより遥かに剣の才能が高い。
(下手に魔法を教えて魔法系のスキルを得たら良くないな。)
アストンは、エメリコで、貴族のいざこざで才能を潰された魔法使いをたくさん見てきた。
レオナルドの才能を潰したくないと思い、放任を決めた。
次男の方は…
(つまらん子供だ。魔法に興味が無いと見える。)
アストンはヴィルトンにも放任を決めた。
そしてレオナルドの洗礼の日、アストンは当主ライアンから散々に罵られ放逐された。
(なんだ、あの器の小さい男は!)
ライアンはアストンに、最後の報酬も路銀も出さなかった。
アストンは報酬を魔法研究に費やしていたため、蓄えが少ない。
(エメリコまでの旅費が無い…)
王都へ行って研究仲間のツテを頼ろうと、王都行きの商団に護衛として雇ってもらった。
しかし道中で運悪く盗賊に襲われ、奮戦虚しく奴隷にされてしまった。
「ところでエル様、あの盗賊達はかなりの腕前でした。魔法軽減の防具で全身を固めており、そこらのエメリコの魔法師団でも手を焼くレベルだと思います。今もいるかは分かりませんが、王都へ行く場合はお気をつけてください。」
「あ、あぁ分かった。しばらく王都に行く事はないと思うが気をつける。続きを話してくれ。」
アストンは強力な魔法使いとして、盗賊の仲間と思われる違法奴隷商に使われた。
この数年間でかなりの暗殺命令を受けた。
誰かは知らないが、ターゲットはかなり身分の高そうな相手が多かった。
自暴自棄になり、自滅も恐れず雷魔法を使い続けた結果、幸か不幸か、雷魔法の制御は上がった。
そして、ワイルダーが現れた。
「ワイルダーは自分がヴィルトンに仕えている事は言わず、ただオーウェン家に復讐する機会を与えてやるとだけ言いました。」
「なるほど。奴はアストンの事情を知っていたのか。」
「その通りかと。」
「奴は鑑定魔法を使えたし、ヴィルトンから情報も得ていたからな。優秀な雷魔法の使い手と聞いて察したのかもしれない。」
「そして私はワイルダーに買われ、ここで待ち伏せして、オーウェン家の三男とメイドを暗殺するように命じられ…エル様に返り討ちにされました。」
(そう圧倒的な力で返り討ちになった。エメリコのトップ魔法師にも劣らない正確さ、素早さ、威力。針や魚など、自在に形を帰る制御力。私の雷魔法を利用する発想力。まさしく神童だ!)
「私が意識を戻した時には全員が敗北し、ワイルダーは亡くなっていました。」
話し終えたアストンがエルに視線を流す。
(エル様、これでいいんですね?)
(ああ。ワイルダーはおれが殺したことにしてくれ。)
「ヴィルトンの依頼書を回収しようとしたら、アストンの奴隷契約書まで出て来てな。魔法で焼き尽くして無効化したから、アストンは今は自由な身なんだ。」
「私はライアン殿には多少の恨みがありますが、エル様には放り出された者同士の共感と、奴隷の身から解放してくれた事への感謝、魔法使いとしての尊敬の念のみです。それに手を汚した私には、もはや帰る居場所がありません。ぜひエル様と共にロックハードへ行かせていただきたいのです。」
アストンが頭を下げる。
「エル様ちょっといいですか?」
メローがエルの腕を掴んでひっぱって、アストンに声が届かないところまでやって来た。
残されたシーナは所在なさげに待ってる。
「どうした?」
「彼は信用できるんですか?少なくともライアン様に恨みを持っているんですよ?」
「大丈夫、彼は信用出来る。僕に何かしても父はむしろ喜ぶだろう。それに父に恨みを持っているのは僕も同じだよ。」
「うーん。エル様がそういうなら信用しますけど…」
「ありがとう。安心してくれ。何かあっても僕の方が強いしね。」
(大丈夫だよ。メロー。彼は信用できる。だってワイルダーを殺してくれたのはアストンなんだから…)
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