13 vsワイルダー
雷魔法は強敵だ。
もし頭に当たったら即死しかねない。
(なら射線に出ずに一方的に攻撃すればいい)
水の雑魚!
エルの周りに魚が漂う。
普段より魔力を込めたため、もはや小魚と言える大きさではない。
(向こうから近づいて来た?…雷魔法の自爆が怖くないのか?魚達、馬車を迂回して行っ)
魚を動かす前に馬車が爆ぜた。
「なんっ!」
弾き飛ばされる。
(馬車ごと撃ち抜いて来た!?)
放り出されながら、《高速思考》で考える。
今のは火魔法か!
だが、この距離なら雷魔法はもう撃てない。
火魔法なら魚達で防げる!
「グギギっ」
歯を食いしばり、衝撃を無理矢理抑えこんで、水の雑魚達を前に出して相手に突進する。
相手の顔を認識した。
(お前は!!)
相手はすぐに魔法の準備に入る。
(また雷魔法!?この距離で自爆が怖くないのか?!ユニークスキルか?!)
間に合わない。
「があっ!」
前に泳がせていた魚達で多少は雷が散ったが、それでも痺れで止まってしまう。
だが、身体は止まっても《並列思考》で水の雑魚は動かし続けられる。
残った魚達が雷を纏ったままぶつかる。
「あがががぁぁ!」
雷魔法の使い手は吹き飛ばされ、動かなくなった。
「ふぅ、ふぅ…お前がここにいるとは…」
エルは見覚えのある男に近づいた。
「間違いない。レオ兄の家庭教師をクビになった奴だ。」
魔法国エメリコから呼び寄せた、火と雷魔法の使い手。
(何でこいつがいるのかは分からないが、5人全員倒した。)
耳と鼻をすまし、全員意識を失っている事を確認して、魔力循環を解く。
(かなり長く使った。ダメージも受けたし後の反動怖いな…)
自分達の馬車の方を振り返った時、
ザクッ!
背中に鋭い痛みを感じる。
(伏兵!どこから?!)
振り向きながら魔力を体に込めなおし、同時に横の火の玉を背後へぶつけるように動かす。
人影は火の玉が当たるより一瞬はやく後ろへ下がった。
「ワイルダー!」
ワイルダーが右手をさすりながらこっちを見ていた。
(火はかすっただけか…ワイルダーから音がしない?匂いもだ。消音魔法は匂いまでは消せないからもっと上位の魔法。それかスキルか…)
「ふぅ…危なかった。驚異的な魔法の速さだ。まさかこんなに強いとはね。」
魔法かスキルを切ったようだ。
おれは足をつく。
(魔力を込めても動かない…反動か?…いやこれは…)
「その匂いは痺れ毒か…」
薬草摘みのついでに、ウッドから何度か依頼されて採った事がある。
「……匂い…やっぱり君、同業か」
ん?同業?
こいつも植物採取の冒険者なのか?
冒険者同士の殺しは御法度だ。
バレればギルドから追放され、生涯終われる身となる。
同業と分かれば少しは躊躇うか?
今は肝臓に魔力を集中させて解毒を促してるが、まだ時間がかかる。
さっきの身のこなしと、正体不明の魔法かスキル。
身動きとれずに魔法だけで対処できる相手とは思えない。
おれが死ねば、おそらくメローとシーナまで犠牲になる。
「その通りだ。」
「オーウェン家の掃除屋は、噂じゃ近接特化と聞いてたけど魔法使いタイプだったとはね。あぁなるほど、ロックハード送りは身を隠すための口実という訳か。」
掃除屋?
おれをオーウェン家の用心棒か何かと勘違いしてる?
しかもワイルダーも掃除屋なのか?
「ふっふっふっ。そういう事だ。おれを殺したところで何の意味もないぞ?」
「…無駄な殺しは趣味じゃないんだけどね…ヴィルトン様の命令だからさ。」
「この事はおれとライアン様しか知らない。ヴィルトンは初めから存在しない当主候補と戦っている。何度も当主には興味がないと言ったんだがな。」
「そう言えばそんな事も言ってらしたっけ。ヴィルトン様は疑り深いからね。君の標的は誰だい?わざわざロックハードに行くフリなんてしたんだ。何もない訳ないだろ?証明出来るなら標的次第で見逃してもいい。僕もオーウェン家の能面鬼と本気の殺し合いはしたくない。」
標的?そんなのいないから安心してくれ…と言いたい。
だいたい能面鬼って何だよ。
ヴィルトンはおれが生まれた時から演技してたのを知ってたのか?
「おまえこそどうなんだ?標的がおれだけなら別にいいが、オーウェン家の人間に手を出すつもりならここで止める。」
そう言って周囲に水の雑魚を出現させた。
今度のイワシ程度の小魚だ。
(魔力が足りない…身体もまだ動かない…)
代わりに殺気も込める。
実際、ノエル母さんや、シルヴィやガリオに手を出すつもりなら、たとえ見逃されてもやる。
「動けなくても魔法は使える。近接が出来なくてもお前を道連れにするぐらいは出来るぞ?」
頑張れおれ!
0才からやって来た演技の本気を見せてやる。
「…僕の標的はオーウェン家じゃない。」
「証拠はあるのか?」
「偉そうにするなよ…僕は貴族学校に入ってるんだよ?標的は貴族学校の中にいるに決まっているじゃないか。」
オーウェン家で貴族学校に通っているのはヴィルトンだけだ。
「ならなぜヴィルトンに近づいた?」
「僕から近づいたんじゃない。ヴィルトン様の人を見る目は本物だよ。彼は、君も僕もまともな人間じゃないって気付いてた。だから君を殺すように依頼して来たのさ。」
ヴィルトンの目は節穴だな。
おれはまともな人間だぞ?
「これがその依頼書だ。だけど、君がオーウェン家の掃除屋で、跡目争いをする立場にないなら生かしてやる。」
依頼書にはヴィルトンの印が押されていた。
対象は…おれとメロー。
「さあ、君も証明してもらおうか?これを見せた以上、タダでは帰せない。君が一筋縄で行く相手じゃないのは分かったけど、まだマトモに動けないんだろう?言っておくけど嘘の依頼書なんて通用しないよ。」
動けないのがバレてる。
どうする…
「依頼書は…すでに焼き捨ててしまったな。」
「へぇ、そうかい…」
ワイルダーがナイフを構えた。
何とかして時間を稼がないと…
反応などいただけたら幸いです。
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