12 出発
メローはすぐに父とケイトから許可をもらって来た。
父は特に何も言わずに許可を出したらしいが、ケイトからはメイドの鑑だと、激励と共に剣を2振り、鞭と槌を1つずつ貰って来た。
メローに教え込んだのはケイトか…
一本はおれ用の小さい剣だ。
冒険者業ではナイフと魔法で何とかしてたから助かる。
「ケイト様も着いて来たがったのですが、なんでも契約でオーウェン家とノエル様の元から離れられないそうで…」
「そうか。その気持ちだけでありがたいよ。」
契約か…もしかしてケイトは…
ま、そんな事を勘繰るのはやめておこう。
うちとノエル母さんを守ってくれるならそれでいい。
「メロー、シーナ。おれは今日の夜、家を出てロックハードへ向かう。途中いくつかの村に寄るが、それまでに魔物や盗賊に襲われるかもしれないから身を守るために僕が作ったアイテムを渡しておく。」
〜〜〜
夜。
領主館の前に一台の馬車が止まった。
ボロくて、貴族が乗っているとは誰も思わないだろう。
御者が降りてくる。
「どうぞ。良いお旅を。」
「ええ。ありがとうございます!」
「(声を立てるな!エルロンド!)」
シーナが御者台に乗り、おれとメローが馬車に乗り込む。
「シルヴィ、ガリオ、さようなら。」
「ご達者で!必ず連絡をください!」
「向こうで落ち着いたら連絡をするよ。シルヴィも、ね。」
シルヴィを抱きしめて別れを告げた。
すると、ガリオもやって来た。
意外だな?ガリオも抱きしめて欲しいのか?
ガリオは泣いていた。
「(エル兄さん…ダリア母さんとヴィル兄さんがごめんなさい…僕、何も出来なくて…)」
ガリオ…
「(気にするな。お前のせいじゃない。強い騎士になれよ。ノエル母さんとシルヴィを守ってやってくれ。)」
「(分かった。約束する!)」
おれはヴィルのこともあって、ガリオにはあまり関わらなかった。
正直、自分の弟というより、ヴィルの弟として見てた。
それなのに、ガリオはおれのことをお兄ちゃんとして認識してくれていた。
(もっと構ってあげれば良かった…)
「それでは父上。さようなら。」
「うむ。」
おれ達はロックハードへ向けて出発した。
ーーーーー
街を出てしばらく平穏に進む。
「最初の町で一泊でしょうか?」
「そうだな。森に入ったら夜は危険だ。」
一目につかないために、わざわざ夜に出たが、森に入ると魔物がいる。
ウルフ系や虫系は夜でも襲ってくる。
最初の村で休ませてもらおう。
「ご主人様〜。森が見えて来ました!あと10分ぐらいで入ります!」
「分かったー!」
「エル様、シーナのどこが良かったのですか?」
「んー。」
改めて言われると何だろうな。
やっぱり安かったところかな?
同じ値段だったらウィンターを選んでたと思う。
でも、女性にそんな事言えないもんな。
「目つきかな。」
「目つきですか?」
「なんか鋭い目つきでさ、ロックハードでも大丈夫そうって思ったんだよ。」
「なるほど…」
ん?
「どうした?急に睨んで来て?」
「いえ、別に。」
ガタン!
馬車が止まった。
「シーナ!どうした!」
「森の前に別の馬車が見えます!」
「エル様、もしかして…」
「心当たりが1つあるが…もしかしたら立ち往生してる他人かもしれない。警戒しながら進もう。」
メローとシーナに武装させて進む。
おれは御者台の下にある小窓から前方の様子を伺う。
止まっている馬車の近くに来た。
「シーナ、いったん止まって馬車の中に入れ。僕が行って声をかけて来る。」
「それは危険です!わたしに任せてください!」
「大丈夫だ。実は僕はこれでもE級冒険者だ。それに万が一馬や馬車をやられると困る。メローはシーナとこの馬車を守ってくれ。」
「…分かりました。ご武運を。」
「戻りました!」
「シーナ。メローの側にいるように。」
「はい!」
馬車から出る。
「火の玉!」
体の周りに特大の火の玉を1つ出して明るさを確保する。
ゆっくりと止まっている馬車へ近づく。
人気がない…全身に魔力を循環させ始める。
「すいませーん。どうされましたー?」
左手に小石を握り、ケイトから貰った剣の柄に右手をかける。
カサッ
道から外れた左の草原から音が聞こえた。
(だれかいる?攻撃していいかな…)
《詰め込み》と《魔力超制御》で、耳と鼻に重点的に魔力を込めて、感覚を強化して身体強化もどきをする。
冒険者として周囲を警戒する時の十八番の技術だ。
やり過ぎると、しばらく耳も鼻も使い物にならなくなるので要注意だ。
感覚を強化したまま。馬車に近づく。
カサッ…カサ…ハァ…ハァ…
(馬車の中は無人。息は左に4人、右に1人。全部で5人。ヴィルの手下と同じ人数。おれの馬車の付近からは…気配はしない。)
匂いからして人間。
そして鉄の匂い。武器をすでに出してる。
おれは足を止めた。
「誰もいないんですね?」
覚悟を決める。
道の脇にいるのは、おれとメロー達の敵とみなす。
おれは全身に限界まで魔力を詰め込んだ。
「なら、攻撃します。」
ガサッ!
左手から人が飛び出して来た。
数は3人。
鈍過ぎて話にならない。
おれの隣にあった大きな火の玉から、小さな火の玉が無数に飛び出す。
ボボボボボ!
「なんだ?!」
飛び出した火の玉は、襲撃者にぶつかり、
ドガガガガン!
爆発した。
「ごばっ」「おごお」
人影は全員吹き飛んだ。
(まだ左右に1人ずつ残ってる。)
左に残っていた方から、魔法が飛んでくる。
かなりの数だ。
(風魔法か。魔法強化系のスキルで数と威力が増してるな。暗闇だと見にくくて対処が大変だよな。おれには関係ないけどな!)
今のおれの耳は魔物並みだ。
風音も聴き逃さない。
(水の壁!)
《高速思考》と無詠唱でだいたいの魔法に対処ができる。
ボシュボシュボシュ…
水の壁に風魔法が防がれていく。
敵は位置を変えない。
(まだ自分の居場所がバレてないと思ってるな?水の小針!)
壁の中から小さな水の針が発射された。
ピュピュピュピュピュ
「痛っ!なんだ!ぐぎっ!」
ピュピュピュピュピュ
「やめてくれ!」
「命乞いは攻撃する前に言うべきだったな。」
おれはもう覚悟を決めて来ている。
そうじゃなきゃロックハードで生きては行けないだろう。
ピュピュピュピュピュ
「…」
水の小針は水の壁から繋げると、面で撃ち出せて敵の位置が曖昧でも当てられる。
(右の奴が出てこない…)
一瞬後ろが光った後、動く前に背中から全身に衝撃が走った。
うぐっ!
咄嗟に目の前の馬車に身を隠す。
《高速思考》で対処できない速さと、痺れ。
雷魔法だ。
(貴族学校の学生に雷魔法の使い手なんているのか!?魔法学校に行けよ!)
おれは全身に限界まで魔力を込めて強化してる。
さっきの風魔法なら防がなくても問題ないぐらい。
だが、今の雷魔法は身体強化もどきを貫通する程の威力だった。
(速過ぎて《高速思考》でも対処ができない。威力も高くて痺れで動けなくなるから防御力でごり押しして近づく事もできない。やっぱり雷魔法は凶悪だ。)
雷魔法は簡単に制御出来ないが、もし完璧に制御出来るなら脅威だ。
どうやって潰すか…
ーーーーー
ワイルダーは焦っていた。
(おかしい。魔法の発動速度と威力が釣り合ってない…)
道が狭くなっているところを馬車で塞ぎ、エルの馬車を止めたのは計画通り。
さらに、エル1人を誘きだせたまでは計画以上だ。
エルが規定の位置を超えたところで、バフ系のスキル持ちが、近接戦闘系のスキルを持った3人にスピード上昇をかけ、一斉に斬りかかる。
唯一の欠点は、スピード上昇後、呼吸が速くなって耳がいい相手だと気付かれる事があるという点。
スピード上昇は風魔法にも乗るため、バフ要員も攻撃に参加する。
この4人による奇襲で十中八九でカタがつく。そうでなくても大怪我を負わせられるはずだった。
だが、4人は武器の間合いに入る前に吹き飛ばされていた。
エルの反射速度が速すぎたのだ。
エルは無詠唱、《高速思考》、《魔力超制御》で魔法の発動がとにかく早い。
しかも《詰め込み》で魔力を込めるので威力が落ちない。
今回はフィールドに母体となる火の玉や水の壁を出してさらに効率化をしていて手に負えない強さを見せていた。
(あのステータスが本当なら、こんな事は絶対にできない。)
ワイルダーは鑑定魔法が使えた。
エルにも鑑定を使って、スキルと魔法を確認している。
確認した魔法は、基礎魔法と火の玉、水の玉、身体強化。
スキルは、《速読》《並列思考》。
オーウェン家らしいものだ。
そして、洗礼で得たのは《魔力制御》。
(僕の鑑定でも見切れないスキルや魔法を隠し持ってたか。鑑定妨害なんてとても表の人間とは思えないけど…)
そして、仲間の風魔法を防ぎ、針のような水魔法を仲間に容赦なく撃ち込むエルを見て、ワイルダーは決めた。
(あれは死んだか?貴族のボンボンの甘さじゃないな。自分の手は汚したくなかったが、僕も出て確実に仕留める。)
ワイルダーはゆっくりとエルに近づいていった。
反応などいただけたら幸いです。
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