水のご馳走
ぶつかった青い竜はブルーという名前だった。
どうやら料理長らしく、材料が足りなくなったので買い出しに言っていたそう。
「いやー、前見てなかったわ。ごめんな」
ブルーは転んだ拍子に地面に散乱した食材を拾い集めながら言った。
「僕も気づけなかったので。すみません」
ヒカルは一緒に拾い集めながら謝った。
「いや、そんな。謝らなくていいんだ」
ブルーはそう言った。
3人はすぐに全ての食材を集め終えた。
「いやー、助かった。ありがとな」
ブルーは礼を言った。
「いいんだ。それより、早く行ったほうがいいだろ。飯待ってる奴らがいるんだろ?」
ウェインが言った。
「そうだな。あ、そうだ。特例......名前、ヒカルっていうんだっけ?お前も食堂にこいよ。ご馳走してやる」
ブルーはそう言って、走っていってしまった。
「全く、転ぶなよー」
ウェインがブルーに言った。
「......あの、ウィンブルさんも言ってましたけど、特例ってなんですか?」
ヒカルはウェインに聞いた。
「ああ、そういえば言ってなかったな」
ウェインが言う。
「簡単に言うと、負傷者を預かっておける期間みたいなやつ。普通は7日間までなんだが、ヒカルくんは記憶喪失だった。こう言う場合、17日間までいられる。ただ、あんまり適応されないから、特別な例、つまり特例として扱われるんだ」
ウェインが言った。
「他にも、なんらかの事件に関係していそうな場合なんかも、捜査のため適応されることがある」
「事件......もしかして、森の?」
ヒカルの問いにウェインは頷いた。
「あんまり関係性はないだろうと言ったんだがな。ウィンブルみたいなやつは分からんみたいだ」
ウェインは肩をすくめた。
やはり、話すべきなのだろう。ヒカルはそう思った。
あの日のことを話せば、何か分かるかもしれない。森の異変とやらも、自分のことも。
しかし、やはり思い出すのが辛かった。
ウェインは食堂の扉を開けた。
「あれ、思ったより空いてんじゃねーか」
ウェインが言った。
ウェインとヒカルの2人は食堂に入った。
食堂は天井が高く、いくつものランタンとテーブルの蝋燭が辺りを照らしている。
テーブルはいくつも並んでいる。
「あ、ヒカル君だ!」
1人の少女が走ってきた。
黄色い髪、腰の短剣。森でヒカルを助けてくれた、ヒカリだった。
「こら、食堂で走るな」
ウェインがヒカリに言った。
「ごめーん」
ヒカリはそう言い、ヒカルを見た。
「元気?怪我は大丈夫?」
「はい。おかげさまで」
ヒカルが言うと、ヒカリはニコッと笑った。
「よかった。記憶も無いみたいだし、心配だったんだ」
ヒカリが言う。
「ねえ、ご飯これから?一緒に食べていい?」
「あ、はい。もちろん」
ヒカルが言った。
3人は近くの席に座った。
ヒカルの隣にヒカリが座り、ウェインは向かい側だ。
椅子は大きな長椅子で、2人で座ってもかなり余裕がある。
「はーい、お通しでーす」
通路を見るとブルーがいた。
白衣を着て、コック帽をかぶっている。
ブルーは3人に水を渡した。
「ようこそ、ブルーシェフの気まぐれレストランへ!」
ブルーが明るく言った。
「何それ」
ヒカリが笑う。
「今日は客がいるからな、一回やってみたかったんだ」
ブルーはそう言って笑った。
「今日じゃなくても......それにしても、なんか、随分兵士が少ない気がするんだが」
ウェインが周りを見て言った。
確かに、食堂には数人しかいなかった。
「ああ、なんか買い出しに行ってる間に、みんなどっかいっちゃってさ」
ブルーが言った。
「全く。ちゃんと用意しておけ。で、今日はなんだ?」
ウェインが言った。
「本日は、竜のステーキだ!出来上がるまでお時間かかりますので、よろしく!」
ブルーは食堂の奥の厨房に向かった。
「なんか、今日すごい元気ね」
ヒカリが苦笑いして言った。
「客がそんなに嬉しいのか?」
ウェインが言った。
しばらくすると厨房からブルーが出てきた。
両腕を使って、3皿一気に運んできた。
「お待たせしました!竜の......なんの部位だっけ......ああ、そうだ。竜のもも肉のステーキだ!」
ブルーはテーブルにナイフとフォーク、そしてステーキ3皿を並べた。
ステーキの見た目は、ぱっと見牛肉のようだった。
「いただきまーす!」
ヒカリは夢中で食べ始めた。
ウェインも食べ始める。
種族の差はあるらしい。
ヒカリはナイフとフォークを使って食べているが、ウェインはフォークを肉に刺したと思ったら、そのまま貪り始めた。
「いただきます」
ヒカルも食べ始めた。(もちろんナイフとフォークを使って)
味は鶏に似ていた。
少し固く筋っぽいが、独特な食感だった。
「美味いか?」
ウェインが聞いた。
ヒカルは頷いた。
「やっぱ、ブルーさんの作る料理は、誰が食べても美味しいんだね」
ヒカリが微笑む。
他の人たちと食事をするなんて、いつぶりだろうか。
少なくとも、この城に来てからは初めてだ。
それにしても、本当に久しぶりな気がした。
もう何年もこんな経験はしていなかったような......
気がつくと、ヒカルの目から涙がこぼれた。




