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風の疑い

 昼

 ヒカルとウェインは街にいた。

 ヒカルの服は城にあった新品のものになっている。

 2人はヒカルを知っている人がいないか探してまわった。

 酒場や花屋、広場など、あちこちで聞いたが、誰も知っているという人はいなかった。

 2人は広場のベンチに腰掛けた。

「誰も知らない、か。困ったな」

 ウェインが頭を掻いた。

 ヒカルはうつむいた。

 自分が話せばどこから来たのか見当はつくかもしれない。

 だが、恐怖心から、ヒカルは話せずにいた。

 あの日のことは、思い出すだけで気が狂いそうだった。

「すみません、自分が話せたら......」

 ヒカルは言葉に詰まった。

「気にするな。誰しも話したくないことの一つや二つあるもんだ」

 ウェインは言った。

「それに、時間はある。今日はダメでも、明日、明後日は、知ってるやつが見つかるかもしれない。それまで頑張ろうぜ」

 ウェインは立ち上がり、手を差し出した。

「......はい」

 ヒカルはウェインの手をとって立った。


ーいつかとか次はとか、あなたはいつもそればっかりー


(!?)

 女性の声がした気がした。

 ヒカルは思わずビクッとした。


ーいつになったら......るの?なんで......できないの!?ー


(今の......僕の記憶......?今の人は、誰......?)

「どうかしたか?」

 ウェインの声でヒカルは我に帰った。

「あ、えっと......なんでもないです」

「そうか?まあ......とりあえず行くか」

 2人は城に向かった。




 ウェインは壁に手を当てた。

 レンガが動き、入り口ができる。

 2人は中に入ろうとした。

 その時、ヒカルが何者かに頭を掴まれ、持ち上げられた。

「え?」

 ヒカルは何が起きたのか分からず、体を強張らせる。

「見つけたぜ、特例」

 ヒカルを持ち上げたのは、緑色の竜だった。

 壁に足の爪を引っ掛け、逆さまにぶら下がっている。まるでコウモリだ。

「あいつらの話はよく分からなかったからな。俺が直接尋問してやる」

 緑の竜が言った。

「は!?お前何してんだ?」

 先に壁の内側に入ったウェインが外に出てきて、竜を見て驚く。

「朝の会議の話は全く理解できなかった。ただ、一つの仮説は立てられた」

 竜はヒカルを掴んでいない方の手で、ヒカルを指差した。

「こいつが怪しいってことだ!」

「......」

 ウェインは呆れた様子で竜を見た。

「会議の内容は知らないが、お前がいつも通りアホなのは分かった。さっさとヒカルを降ろせ」

「やだね!こいつから、森の異常に関する情報を聞き出す、絶好のチャンスだ。逃すわけないだろ!」

 竜はヒカルの胸ぐらを掴んだ。

「さあ、言え!森の異常は、誰の仕業......」

 その時、ウェインが竜に飛び蹴りした。

 バランスを崩した竜はヒカルを放し壁から落ちた。

 ヒカルはウェインがキャッチした。

「怪我は無いな?」

 ウェインは一瞬で確認すると、竜を見た。

「痛ってー、何すんだアホ!」

 竜はフラフラと立ち上がった。

「......ウィンブル、ボルトに報告する。覚悟しろ」

 ウェインは竜に言った。

「え、え!?なんで?」

 ウィンブルは驚いた様子を見せる。

「はあ......実力はあるのに、なんでこんなにアホなんだ」

 ウェインは呆れたように言うと、ヒカルを連れて壁の内側に入った。

 しかし、ウィンブルが付いてくる。

「俺はアホじゃねえ!頭いいから分かるんだよ!そいつが怪しいってな!」

「じゃあどう怪しいんだ?言ってみろ」

 ウェインは振り返らず言った。

「まず」

 ウィンブルが声を張り上げる。

「記憶喪失ってのが怪しい!嘘ついて内部に潜入しようってわけだろ!」

「潜入して、その後は?」

 ウェインが言う。

「......その後?」

「そうだ。なんらかの手段で手に入れた情報を外に伝えなくてはならない。そんなそぶりはあったか?」

 ウィンブルは少し考えた。

「......今、外から戻ってきただろ!」

「俺が一緒にいた。ずっと見てた。情報の交換などは行われていない」

 ウェインがそう言うと、ウィンブルは

「そっか......」

 と呟いた。

「で、でも、そもそも、いきなり森に現れた時点で怪しいだろ?」

 そう言われ、ウェインは一瞬歩みを止めた。

 その隙にウィンブルがヒカルの腕を掴んだ。

「色々と異常が起きてる森に突然現れた記憶喪失の少年。何にも関係無いとは思えない。やっぱ、絶対何か知って......」

 ウィンブルは途中で言うのをやめた。

 誰かが肩を叩いたからだ。

 ウィンブルが振り返るとそこには黄色い竜、ボルトがいた。

 肩にボロボロの赤い竜を担いでいる。

「......ボルト......な、なんかようか?」

 ウィンブルの顔が青くなっていく。

「ああ、お前も説教されたいみたいだったからな」

 ボルトはにっこり笑って言った。

「ああ、ちょうどこいつのこと伝えようかと思ってたんだ......担いでんの、レッドか?」

 ウェインが聞いた。

「ああ。さっき〆てきたんだが、まさかもう1人、やられたいやつがいたとはな」

「嫌、嫌......あやま、謝るから......」

 ウィンブルは必死に懇願するが、ボルトはウィンブルの頭を掴んだ。

 ウィンブルはヒカルを手放した。

 ヒカルはウェインの後ろに隠れた。

「話がある。裏に来い」

「イヤだアアアア!」

 ボルトは絶叫するウィンブルを引きずっていった。

「あ、あの......」

 担がれているレッドがか細い声を出す。

「俺は......俺はもう終わったんですよね......?」

 レッドはそう言ったが、ボルトは何も言わず城の裏に向かった。

「待って、待ってよ!ねえ......!」

 3人とも、見えなくなった。

「......なんか、えっと......」

 ヒカルは何とも言えない表情でウェインを見た。

「あー......普通にしてれば、ああいうふうにはなんないから。とりあえず、医務室に戻ろう」

 ウェインはヒカルを連れて医務室に向かおうとした。

「ああ!どいてどいて!」

「え?」

 2人が反応する前に、誰かが2人にぶつかった。

 ウェインとヒカル、ぶつかった人の3人は倒れた。

 ぶつかった人が持っていた袋から様々な食材が転がり出る。

「イテテ......あ、ごめん。大丈夫?怪我は?」

 ぶつかってきた人が言った。

 それは青い竜だった。

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