会議
ヒカルはベッドの上で目を覚ました。
目をしばたき、辺りを見回す。
「起きたか」
部屋の隅のデスクにウェインがいた。
「ここは......」
ヒカルは再び部屋を見回す。
「さっきと変わらん、医務室だよ」
ウェインは立ち上がり、ヒカルに歩み寄った。
「大丈夫か?何か、思い出したか?」
ウェインはヒカルの肩に手を置いた。
「その......」
ヒカルは言い淀んだ。思い出すだけで、恐怖でパニックになりそうだった。
「......話せるようになったら......話してくれるとありがたい」
ウェインはそれだけ言い、デスクに戻った。
ヒカルは窓から外を見た。
どれだけ時間が経ったのだろう。
外はいつの間にか真っ暗になっていた。
「今日はここで休め。明日から、お前の......家とか、探し始めよう」
ウェインが言った。
早朝
大広間の一角に、4人の兵士が集まっていた。
兵士たちの目の前には巨大な扉があった。
扉の上に止まり木のようなものがあり、そこに一羽の黄色い鷲がとまっていた。
「で、ボルト。あの特例の小僧はなんなんだ?」
1人の兵士が言った。
赤い鱗の二本足の竜だ。
「詳しくは知らん。ヒカリが森で見つけてきたらしい」
黄色い竜、ボルトが言った。
「森ねぇ......」
青い竜が呟いた。
「最近、ずっと変だよな......ヒノコが出たと思ったら、今度は記憶喪失の少年ときた。しかも不審者の目撃情報まである」
「襲撃も増えている」
ボルトが言った。
「何か、異常事態が起きているのは確かだ」
「小僧がなんか知ってんじゃねえの?」
緑色の竜が言った。
「記憶喪失だって言ってんだろ」
青い竜が言う。
「いや、ちょっとくらいなんか覚えてんじゃねえの?つーか、突然森に現れて、しかも記憶喪失って、今の森の状況鑑みたら、怪しいだろ」
「まあ、それはそうかもしれないけど......」
青い竜と緑の竜が話していると、ボルトが尻尾を床に叩きつけた。
「ボスが来たぞ」
扉の向こうから、ゆっくりと、重い足音が近付いてきた。
4人は片方の膝をついた。
「......会議を始める!」
ボスは大声で言った。
「いつもいつも、うるさいやつだ」
ボルトは呟いた。
「さて」
ボスが言う。
「皆も知っていると思うが、森で記憶喪失の少年が発見された。現在、特例として、城で保護している。そして、少年が発見された森では、現在、さまざまな異常が起きている。この2つの件について何か報告は?」
ボスは4人に聞いた。ボルトが立ち上がった。
「まず、少年の件ですが、どうやら記憶の一部を思い出した可能性があると、先ほどウェインから報告がありました」
「マジで!?どうなんだ?何か知って......」
緑の竜が聞こうとしたが、話し終わる前にボルトが首を振った。
「あくまでウェインの推測だが、少年......ヒカルの記憶喪失の原因は、精神的なものの可能性があるそうだ」
「精神的!?」
青い竜が言う。
「......つまり?」
緑の竜はイマイチわかっていない様子だった。
「脳の防御反応だ」
ボルトが言った。
「あいつは、全て捨てることを望んだんだろう」
「じゃあ、つまり......どういうこと?」
緑の竜を見て、青い竜がため息をついた。
「話さなかった。そうだろ?」
青い竜がボルトに聞いた。ボルトは頷いた。
「思い出すのも辛い、地獄だったのだろう」
ボルトが言った。
「少なくとも、少年が異常の原因である可能性はあまりないかと思われます。次に、その異常について......」
「俺が話す」
赤い竜が立ち上がった。
「俺が調べた結果、異常の原因は二つあるのが分かった。一つは火属性の龍。森の奥の方から、強大な属性の力を感じる。皆それに怯えてるんだろ。もう一つ、不審者のやつだ。これについてはなんとも言えん、が、どうやら敵らしいということは分かった。大鎌持ってうろついているらしい」
皆黙って赤い竜を見ていた。
「......それ、先週ボルトから聞いたぞ?」
ボスが困惑したように言った。
「え、マジ!?」
赤い竜は驚いた様子で言った。
「あ、そっか」
青い竜がクスクス笑う。
「お前確か、二日酔いで話聞いて無かったよな。それで知らないわけか」
「な......せっかく一週間かけて街の女の子たちナンパして情報集めたのに!......あっ」
赤い竜はボルトをチラリと見た。
「......会議終了後、裏に来るように」
ボルトは赤い竜を睨んで言った。
「いや、違......誤解!誤解して......」
「静かに!」
突然扉の上の鷲が叫んだ。
「で、新たな情報はあるのか?」
鷲が言った。
「申し訳ありません。今レッドが言った情報から、進展は特にありません」
ボルトが言った。
「了解した」
ボスが言う。
「引き続き、森の警戒、調査を行うように。あと、少年についても、よろしく頼む。以上!」
ボスの足音は部屋の奥に消えていった。
「そ、それでは、俺は、失礼する!」
赤い竜、レッドは立ち去ろうとしたが、ボルトに尻尾を掴まれた。
「失礼すんな。裏に来い。先週、依頼全部サボってナンパしてたのは本当か?」
「違......違うんだよ〜!」
ボルトはレッドを引きずって城の外に消えた。
「レッドはほんとダメだな。俺を見習えってんだ」
緑の竜が言った。
「どの口で言ってんだ」
青い竜が言う。
「俺はちゃんとしてるだろ?」
緑の竜はニヤッと笑った。
「いやまあ......」
青い竜は首を掻いた。
「レッドと比べたらマシだけど、一日20時間寝てんのはどうなんだよ」
「休憩でーす」
緑の竜は顔の横でピースした。
「ウィンブル......お前な......」
「つーかブルーだって全然依頼行ってないだろ」
緑の竜、ウィンブルは青い竜、ブルーに言った。
「俺は料理長だから特別だ。それに、暇なときは行ってる」
ブルーが言った。
「へー。俺は忙しいからなー」
「ふざけんな」
ブルーはウィンブルを軽く叩いた。
「じゃ、朝飯の用意よろしくー。俺、いつものとこで寝てるから」
ウィンブルは頭の後ろで手を組み、城の外に向かっていった。
「はいはい」
ブルーは厨房へと向かった。
鷲は止まり木から様子を眺めていた。
「全く、うるさい連中だ」
鷲は呟き、あくびをすると、羽に顔を埋めて寝てしまった。




