竜の住む世界
2人はようやく壁の近くまでたどり着いた。
近くで見ると壮観だ。何も入れぬという意思を感じた。
2人の前方には壁の内側に入れる扉があった。
これまた大きな扉だ。旅客機くらいなら余裕で通れるだろう。
その扉の下には2人の人が立って門番をしていた。
ヒカルには、どちらも銀色の鎧を着ているように見えた。
手には銀の槍を持ち、静かに立っていた。
「ちょっと待ってて、ヒカルくんのこと、話してくるから」
ヒカリはそう言ってヒカルから手を離し、2人の門番に駆け寄っていった。
ヒカリはしばらく門番と話していた。
ヒカルを見つけた時の状況、ヒカルの状態などを門番に話し、門を開けてくれるよう頼んだ。
門番がヒカルを手招きした。
ヒカルは門に向かったが、途中で違和感に気が付いた。
門番が着ている鎧が、鱗のように見えた。
それだけではない。頭には2本のツノのようなもの。背中には翼があり、尻尾まであった。
「ドラゴン!?」
思わず声が漏れてしまった。
2人の門番は一瞬驚いた表情をした。
「......あー、記憶喪失なんだって?」
ヒカルから見て門の右側の門番が言った。
「えっ、あー......そ、そうです、はい」
ヒカルはビクビクしながら答えた。するとヒカリが笑った。
「大丈夫。この人たちは森であった奴とは違うから。襲ってきたりしないよ」
確かにヒカリは2人と普通に話していた。というか、このドラゴンは森の奴と違い、言葉を話せるらしい。
「あ、そう......なんですね......」
ヒカルはそう言ったが、脳裏に先ほどの出来事がちらつき、安心はできずにいた。
ヒカリのことも、信頼していいのだろうか。なぜあの時、あの場にいたのだろう?実はグルだったり......
ヒカルは頭を振り、大きく息を吐いた。
怪我もひどいし、記憶も無い。今はとにかく頼るしか無い。
門番2人は門のかんぬきを外そうとしていた。
人の背丈くらいはありそうな太さのかんぬきを外し、2人の門番は扉を押し始めた。
ゴオオオ......
門の扉が重々しい音を立てて開く。
そこには想像を絶する光景が広がっていた。
草原が広がり、遠くにまた巨大な壁が見えたのだ。
「城まであと5キロくらいだ。頑張れ」
左側の門番が言った。
「このエリアはなんなんですか?」
ヒカルは門を通った先の草原を歩きながらヒカリに尋ねた。
「襲撃受域」
ヒカリはそう言った。
「しゅう......」
「襲撃受域。説明すると長いんだけど......竜と戦うためのエリア。何も無いように見えるけど、地面の中に色々な兵器が埋まってるの。あ、勝手に動いたりしないから、大丈夫だよ」
ヒカリが説明した。
「竜っていうのは......森にいたドラゴンみたいな奴のことですか?」
ヒカルの質問にヒカリは頷いた。
「竜は翼があって、ツノがあって、魔法が使える種族のこと。何種類もいて、私も全部は知らないけど......森にいたのは『火竜』かな」
「かりゅう?」
ヒカリは頷いた。
「そう、『火竜 ドラゴン』。どんな環境にもいる、普通の竜よ」
ヒカリが言った。
「門番の方たちも竜ですか?」
ヒカルが聞いた。
「そう、種類は確か、『ナイトドラゴン』だったかな?でもあの人たちは大丈夫。うちの兵士だから」
ヒカリはヒカルの手を握った。
「大丈夫。ヒカルくんが思ってるほど、竜は怖くないよ」
そんなことを話しているうちに、二つ目の壁にたどり着いた。
ヒカリが門番と話し、扉が開く。
中に広がっていたのは、西洋のような城下町。
中心に小高い丘があり、その頂上に大きな城が建っていた。
四隅が塔のようになっており、屋根に赤い旗が取り付けられている。
だが、城の周りには先程までより低いが、また壁があり、全体像はよく見えなかった。
2人は城下町を歩き、城に向かった。
街は華やかだった。
石畳の通り沿いには木骨組みの家々が軒を連ね、窓からは色とりどりの布が干されていた。
白い漆喰壁に緑の苔が絡まり、赤瓦の屋根が陽に照らされて温かみのあるオレンジ色に染まっている。
家々の間から覗く煙突からは、湯気がゆったりと立ち昇っていた。
「ここが……」
ヒカルは息をのんだ。
「初めてきた人はみんなそうなる。私も最初はびっくりしたもん」
ヒカリが言った。
2人は城下町を歩き、城に向かっていった。
広場では果物や野菜を積んだ荷車が止まり、赤銅色の肌をした逞しい男たちが大声で商売をしている。
彼らの周りには花柄のワンピースを着た女性たちが集まり、賑やかな笑い声と値切り交渉の掛け合いが飛び交う。
やがて2人は壁の前についた。
「この先がドラゴン城よ」
ヒカリが言った。
しかし、扉らしきものがどこにも無かった。
「どうやって中に行くんですか?」
ヒカルが聞いた。
するとヒカリは片手で壁に触れた。
[生体認証...完了]
どこからか機械音声がした。
すると一つ一つのレンガが動き出し、あっという間に入り口ができた。
「さ、入って」
ヒカリに促され、ヒカルは壁の内側へ踏み入った。




