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ディノサウリア

 ヒカルは助けてくれた少女の案内で遠くに見える壁に向かっていた。

 歩いている途中で、とある生物の群れと出会った。

 バスくらいの大きさの、恐竜のような生物だった。

 尻尾に4本の棘が生えたトサカのある四本足の生物が草原を埋め尽くしている。黄色い個体の周りに緑色の個体が集まり、草を食べていた。

 記憶が無いため忘れているだけかもしれないが、ヒカルはこんな生物を見たことは無い気がしていた。

 ドラゴンもそうだが、現代、現実にいるわけがないと思った。

 少女は生物を気にすることなく進んでいった。

 生物も少女を気にしてないようだ。

 しかし、ヒカルはなかなか進めずにいた。

 タクシーサイズのドラゴンもなかなかの威圧感だったが、この生物は路線バスくらいのサイズだ。

 先ほどのドラゴンさえも吹き飛ばしそうな圧があった。

「どうかした?」

 なかなか進めないでいるヒカルを見て、少女が群れの中から戻ってきた。

「だ、大丈夫なんですか?通って......」

 ヒカルは生物を見ながら言った。

「刺激しなければ襲ってこないよ。もしかして、怖いの?」

 少女の問いにヒカルは黙って頷いた。すると少女はヒカルの手を握った。

「何かあっても、私がいるから。ほら、行くよ!」

 ヒカルは少女に引っ張られ、群れの中に踏み入った。

 少女の言った通り、生物は2人を気にせず、草を食べていた。

 さらに、2人が近付くと道を空けてくれた。かなり温厚な生物らしい。

「ほら、大丈夫でしょ?」

 少女はヒカルに言った。

 ヒカルはそっと生物を見た。

 尻尾の先端、右側と左側に2本ずつ、計4本の棘がある。2人の頭上を何度も行ったり来たりしていた。

「なんていう動物ですか?」

 ヒカルは少女に聞いた。

「これは『パラゴン』。草原に住んでるディノサウリアの1種。この辺りにはいつもいるんだけど、知らない?」

 少女の質問に、ヒカルは肩をすくめた。

「それが......」

 ヒカルは自分が記憶喪失なこと、目が覚めたらあの森にいたことを話した。

「何も覚えてないの?」

 少女は驚いたように言った。

「自分の名前以外は、ほとんど何も」

 ヒカルが言った。

「名前......そういえば、聞いてないし、名乗ってもなかったね」

 少女はヒカルを見て言った。

「私、『ヒカリ』。ドラゴン軍刀剣隊所属の兵士よ。よろしくね!」

 ヒカリはニコッと笑った。

「僕はヒカル。えっと、よろしくお願いします」

 ヒカルはかるくお辞儀した。

「そんなにかしこまらなくていいよ」

 ヒカリは笑顔のまま言った。

 その時、

「バオオオッ!」

 パラゴンの群れの中の黄色い個体の1頭が、突然大きな声を出した。

 それに呼応するように、周囲の個体が何かから逃げるように走り始めた。

「な、何!?」

 ヒカルは辺りを見回した。

 その時、ヒカリが近くの木の陰にヒカルを引っ張った。

「一旦様子を見よう」

 ヒカリはパラゴンの群れを観察しながら言った。

 パラゴンたちは皆、同じ方向に向かっていた。

 よく見ると、足元を何かが走り回っている。

 青い毛が生えた、2〜3メートルほどの、2本足の生物だった。

「ディノクス!」

 ヒカリが言った。

 ディノクスたちはパラゴンの周囲を走り回り、どれを狙おうか品定めしていた。

 そして、突然1匹が、まだ大人の半分くらいの大きさしかない、子供のパラゴンに襲いかかった。

 鋭い鍵爪を突き刺し、首に噛み付く。他のディノクスたちもそのパラゴンに飛びかかった。

 周りのパラゴンたちは助けようとはせず、逃げていった。

 ディノクスたちの攻撃でパラゴンの子はあっという間に傷だらけになり、倒れてしまった。

 親と思われる個体が走ってきた頃には、すでに子は動かなくなっていた。

「行こう」

 ヒカリは周囲を確認して言った。

「食事中は襲ってこないから」

 2人はそっとその場から離れた。

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