87/161

「無意識の責任」がもたらす多層的格差

「無意識の責任」という新たな倫理的課題は、2060年代以降の社会に、これまで存在しなかった、あるいは既存の格差をさらに悪化させる多層的な格差を生み出している。

SIDに接続している「プラグド」な人々は、自身の無意識が可視化され、評価される前提で倫理観を形成した。

彼らは、内心の「健全性」を意識し、自己検閲を内面化する。

一方、SIDを装着しない「アンプラグド」な人々は、従来の「表に出さなければ内心は自由」という倫理観を持つため、両者の間で倫理的認識に深い断絶が生まれたのだ。

これは、相互理解を困難にし、社会の分断をますます加速させた。

正規SIDは、ユーザーの無意識のログ化を行うが、そのデータ保護には一定のセキュリティが保証されている。

しかし、シャドウSIDのようなサードパーティー製SIDを利用するユーザーは、無意識のログ化を回避できる一方で、その代わりに法的な保護を失い、闇の介入（心霊ハッカーによる操作など）のリスクに晒されるようになった。

無意識のプライバシー保護が、経済的・技術的選択によって異なるという、新たな格差を生み出すことに繋がった。

SIDによる無意識の評価は、個人の社会的なスコアや機会に直結した。

倫理的に「適合しない」無意識（例えば、倫理スコアが低い性癖や思想）を持つ者は、特定のサービスやコミュニティから排除され、社会的な疎外感を深めるようになっていった。

これは、倫理が、個人の内心を評価することで、社会的な格差を再生産するメカニズムとして機能していることを示していた。