Web3.0と分散型ガバナンスの台頭:DAOの可能性
このような中央集権型プラットフォームの限界と課題に対し、21世紀初頭に提唱され、2060年代に本格的に具現化し始めたのが、Web3.0の思想と、それに伴う分散型ガバナンスの概念である。
Web3.0は、ブロックチェーン技術を基盤とし、インターネットを中央管理者のいない、ユーザーが所有・管理する分散型ネットワークへと変革することを目指すことになった。
この理念の中核にあるのが、DAO(Decentralized Autonomous Organization:分散型自律組織)である。
DAOは、特定の企業や組織が中央で意思決定を行うのではなく、参加者全員が投票や合意形成を通じて、自律的に組織のルールや運営方針を決定する。
スマートコントラクトによって自動化されたルールに基づいて運営され、その透明性と非改ざん性がブロックチェーンによって保証された。
DAOにおいては、プラットフォームの利用規約やコンテンツガイドラインが、少数の企業役員によって決定されるのではなく、プラットフォームのユーザーやクリエイター、開発者といったコミュニティの参加者全員の投票によって決定された。
これにより、ガイドラインの策定プロセスが透明化され、より民主的な合意形成が可能となった。
特定の文化圏の価値観や、ニッチな性癖の表現に関する基準も、コミュニティの投票によって柔軟に決定とされた。
コンテンツの削除やアカウント凍結といった制裁措置も、中央集権的な企業の判断ではなく、DAOの参加者による投票や、事前に定められたスマートコントラクトのルールに基づいて行われた。
判断プロセスが透明化され、恣意的な検閲が抑制された。
ユーザーは、なぜ自身のコンテンツがブロックされたのか、明確な理由を知ることができ、異議申し立てのプロセスも透明化されるようになったのである。
DAOは、前章で論じたブロックチェーンによる匿名販売、ファン専用トークン、クリプト決済といった「新しい経済圏」と深く連携するようになっていった。
DAOが運営する分散型プラットフォームは、中央集権的な決済インフラや広告収入に依存しないため、経済的検閲の影響を受けにくかった。
性癖コンテンツのような、メインストリームの企業倫理に反するとされる表現であっても、経済的に自立した形で流通し、その価値を維持できるようになった。
このWeb3.0とDAOの台頭は、プラットフォーム・ガバナンスにおける「権力の分散化」という、きわめて重要な転換点を示している。
これは、創作者が単なる「受け手」ではなく、自らの表現空間のルールを決定する「主体」となる可能性を秘めていた。




