センシティブ表現の定義の曖昧さ：解釈の多義性と規制の恣意性
「センシティブ表現」という言葉は、現代社会において頻繁に用いられるが、その定義は極めて曖昧であり、多義的である。
一般的には、性的な描写、暴力、差別、あるいは特定の集団に対する不快感を与える可能性のある表現を指すが、その具体的な基準は、文化、時代、社会規範、そして個人の感受性によって大きく変動する。
例えば、第1章で論じた「美少女がお茶漬けを食べている画像」は、多くの人にとっては無害な日常風景だが、特定の性癖を持つ者にとってはきわめてセンシティブな（性的興奮を伴う）表現となりうる。
このような解釈の多義性は、センシティブ表現を規制しようとする際に、常に恣意的な判断の余地を生み出すようになっていた。
ある文化圏で許容される表現が、別の文化圏ではセンシティブとみなされるのだ。
例えば過去において、日本の漫画・アニメにおけるデフォルメされた性表現は、欧米の基準では「児童ポルノ」と解釈されることがあった。
この文脈の欠如が、グローバルなプラットフォームによる一律な規制の根拠となったのだ。
実際は、表現に対する不快感は、個人の過去の経験、価値観、精神状態によって大きく異なるものだ。
ある個人がセンシティブと感じる表現が、他の個人には全くそうではない、という事態は日常的に発生する。
しかし、プラットフォームやAIは、このような個人の感受性の差異を細かく汲み取ることはできず、多くの場合、最大公約数的な「不快感」を基準とすることになる。
センシティブ表現の規制は、常に「表現の自由」との間に緊張関係を常にはらむ。
特定の表現を「センシティブ」として排除することは、その表現が持つ芸術性、社会批判性、あるいは個人的な意味を無視し、一方的にその存在を否定することにつながるのだ。
この定義の曖昧性は、センシティブ表現を規制する側にとって、「都合の良い口実」となった。
明確な基準がないからこそ、特定の表現を排除したいという意図が、倫理的名目を借りて正当化されやすかったのである。
