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グローバル倫理の形成と伝播のメカニズム:普遍性を装う特定性

「グローバル倫理」とは、国際社会において普遍的であると認識され、共有されるべき倫理規範の集合体を指す。


その多くは、人権、民主主義、環境保護、児童保護といった価値を掲げ、国連や国際NGO、あるいは国際条約といった枠組みを通じて世界に普及されてきた。


これらの規範は、一見すると疑いようのない「善」であり、人類共通の進歩を促すものであるように見える。


しかし、その実態は、しばしば特定の文化圏、特に欧米の歴史的・宗教的・思想的背景に深く根差した価値観が、「普遍性」を装って世界に伝播されてきた側面を持っていた。


例えば、キリスト教倫理における性規範、リベラル民主主義における個人の権利の解釈、そして「児童保護」の概念が、その典型である。


これらの規範は、特定の文化圏においては歴史的に形成されたものであるにもかかわらず、国際的な舞台では「普遍的真理」として提示され、他の文化圏にもその適用が求められた。


この「グローバル倫理」が、情報化社会において絶大な強制力を持つようになったのは、多国籍企業、特にIT産業や金融産業がその規範をサービス規約に組み込んだためであった。


前章で詳述したVISA、Mastercard、PayPalといった国際的な決済プロバイダーは、その巨大な市場支配力とインフラの独占を通じて、自社が定める「倫理基準」を世界中の取引に適用した。


彼らは、特定のコンテンツ(特に18禁や性的表現)を「不適切」と判断した場合、その決済サービスを停止することで、事実上の「経済的検閲」を行った。


これは、「倫理」が「金融システム」というインフラを通じて、強制力を持つ「制度」として機能することを意味していた。


クリエイターは、たとえ自国の法律で合法な表現であっても、これらの国際金融インフラの基準に合致しなければ、作品を市場に流通させることができなかった。


Google(YouTube、Google Play)、Apple(App Store)、Meta(Facebook、Instagram)、Amazonといった巨大プラットフォーム企業は、自社のサービス利用規約やコミュニティガイドラインに「グローバル倫理」を反映させ、その基準に基づいてコンテンツをモデレート(監視・削除)した。


これらの企業は、そのプラットフォームの巨大なユーザーベースと市場シェアゆえに、事実上の「門番」として機能し、彼らの基準が「表現の可否」を決定する最終的な権限を持つようになった。


これは、「表現の自由」が、特定の企業の「企業倫理」によって私的に管理されるという、新たな権力構造を確立したのである。


これらのメカニズムを通じて、「グローバル倫理」は、国家の法律や伝統的なメディアの枠を超え、デジタル空間における表現のあり方を規定する、きわめて強力な支配力を持つに至った。


それは、「普遍性」を装いながら、特定の文化圏の価値観を、テクノロジーの力を用いて世界中に伝播・強制するという、新たな形の文化帝国主義であった。


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