古典的倫理観から近代の制度化へ
倫理の概念は、常に人類の歴史と共に発展してきた。
古代ギリシア哲学における「善」の追求や、宗教的教義に基づく「道徳律」は、個人の内面的な規範形成と、共同体における行動原理を規定した。
しかし、近代国家の成立と共に、倫理はより普遍的かつ強制力を持つ「制度」として確立されていく。
近代国家は、社会秩序の維持と国民の安全保障のため、倫理を法という形で明文化してきた。
刑法における公然わいせつ罪や、出版物に対する規制法、あるいは「公序良俗」といった曖昧な概念は、性表現を含む特定の表現を社会から排除するための法的根拠として機能した。
これは、倫理が個人の内面的な規範から、国家が強制する外部的な規制へと移行したことを意味していた。
マスメディアの発展は、倫理規範の伝播と形成に大きな影響を与えた。
新聞、ラジオ、テレビといったメディアは、特定の倫理観を社会全体に広め、「健全な」社会像を構築する役割を担っていたと言える。
これにより、メディアが「倫理の番人」として機能し、特定の表現を「不適切」として自主規制する傾向が生まれた。
これは、倫理が、世論や社会の「空気」によって形成され、表現の自由を間接的に制限するメカニズムを確立したことを示していた。




