31/157

「検閲済み仕様」への堕落：市場原理と創作の魂の乖離

マイルド化された作品は、市場において「検閲済み仕様」として流通する現実を生み出した。

これは、単にコンテンツが「安全になった」というだけではない。

その背後には、市場原理と創作の魂との間の、深刻な乖離が存在していた。

決済会社やプラットフォームが許容する範囲の「健全な」エロスだけが市場に溢れるようになった。

これにより、市場は一見活況を呈しているように見えたが、その実態は、画一的で刺激の少ないコンテンツで飽和しているだけだった。

消費者は、魂の篭らない「安全なエロス」しか受け取れなくなり、彼らにとっての真に心を揺さぶるような「けしからん」衝動を体験する機会は失われていった。

これは、市場が多様な欲望に応える機能を失い、クリエイターと消費者の両方にとって「退屈な」空間へと変質することを意味していた。

資本主義的検閲は、単に特定のコンテンツを排除するだけでなく、市場全体を「健全な」方向へと誘導し、結果的に表現の多様性を奪うメカニズムを持っていた。

企業倫理や社会的リスクを重視する論理が、市場の「最適解」として機能することで、クリエイターは自発的に「安全な」コンテンツを生産するようになった。

これにより、外部からの直接的な検閲がなくとも、市場の論理が自己検閲を促し、表現の自由は内部から蝕まれていった。

この市場原理は、クリエイターに「売れるためには妥協が必要」という諦めを強く強いるものであった。

無論、創作活動を継続するためには、経済的な基盤が不可欠である。

しかし、その経済的基盤を得るために、自身の創作の魂を売り渡すような行為を強いられることは、クリエイターにとって深い苦痛を伴うものであった。

この諦めは、創作意欲を減退させ、本来持っていた情熱を失わせる原因となったのだ。