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AIとスケベ同人作家の戦い ―性的規制と表現の自由の最前線から、SIDが思考を共有する未来へ―  作者: 岡崎清輔
第2章:VISAとマスターが性癖を殺す日  プラットフォームと規制の倫理をめぐる死闘
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「マイルド化」のメカニズム:欲望の変質と表現の無菌化

クリエイターが自身の作品を市場に流通させ、あるいはプラットフォーム上で公開しようとする際、外部からの規制圧力に直面した。


この圧力に対し、多くのクリエイターは、自身の表現を「安全な」範囲に調整しようとした。


これが、「マイルド化」と呼ばれる現象だった。


マイルド化は、多岐にわたる表現要素に及び、クリエイターの内なる欲望を段階的に変質させていった。


最も直接的なマイルド化は、性描写の露骨さの緩和である。


直接的な性器の描写や、性行為の明示的な表現は避けられ、示唆的な表現、あるいは抽象的な比喩へと変更された。


その表現は、例えば、性的な行為そのものではなく、その前後の情景や、キャラクターの感情の機微に焦点を当てるようになった。


これは、かつて「けしからん」表現の中核を成していた「直接的な視覚的刺激」を意図的に排除するプロセスであった。


社会的タブーや、極めてニッチで倒錯的な性癖、あるいは倫理的に議論を呼びやすいテーマ(例:非合意の性描写、暴力と性の結合など)は、市場から排除されるリスクが高いため、クリエイターはより「健全」で「普遍的」なテーマへと移行していった。


例えば、特定の性的フェティシズムを描く代わりに、キャラクター間の友情や恋愛、あるいはファンタジーやSFといったジャンルそのものの魅力に焦点を当てるようになったのだ。


これにより、作品はより多くの層に受け入れられやすくなる一方で、その根源にあった「変態性」は失われていった。


AIの倫理フィルターやプラットフォームのガイドラインに引っかからないよう、キャラクターデザインそのものは修正された。


過度な露出の抑制、特定の身体的特徴(例:過剰な巨乳、特定の性的な部位の強調)の緩和、あるいは特定の属性(例:幼い外見のキャラクターの性描写)の回避などが行われたのだ。


これは、クリエイターが本来追求したい美的感覚や性癖を、外部の基準に合わせて調整するプロセスであり、結果的にキャラクターの「個性」や「魂」が削ぎ落とされることにつながっていった。


物語の展開においても、マイルド化は進行した。


倒錯的な展開、非倫理的な要素、あるいは社会的に物議を醸す可能性のあるテーマは削除され、普遍的な愛、友情、成長といった、より「安全」なテーマへと回帰するようになった。


キャラクターの倫理的葛藤や、人間のダークサイドを描くことが避けられるため、物語の深みや複雑性が失われ、表層的なエンターテイメントへと変質したのである。


これらの「マイルド化」は、AIの倫理フィルターやプラットフォームの規約、そしてSIDの「集合的良識プロトコル」に適合させるための、クリエイター側の適応戦略だっととも言える。


しかし、このプロセスは、クリエイター自身の内なる「性癖」をどのように変質させていくのか?


すなわち、 欲望の純粋性は失われ、外部基準に最適化されていくことで、本来、制御不能であったはずの「けしからん」衝動は、まるで飼いならされた動物のように、安全な檻の中でしか振る舞えなくなるなってしまったのだ。


それは、欲望の「無菌化」であり、最終的には「魂の喪失」へと繋がる危険性を孕んでいた。



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