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補遺:SID倫理社会における創作と検閲の変容:表現の未来への提言
前節では、SID(Synaptic Interface Device)の普及が、人間の脳を量子コンピューターとみなす試みへと繋がり、その過程で意識の究極的な拡張と、それに伴う存在論的、倫理的な課題を提起してきたことを論じた。
私たちは、個人の意識がネットワークに接続され、集合的無意識がデータベース化される中で、「個」の境界が溶解し、倫理が可塑的な「SID倫理プロトコル」としてリアルタイムで生成される社会を考察してきた。
本補遺では、これらの基盤テクノロジーが織りなす2060年代の倫理体制が、本書の核心テーマである「創作」と「検閲」にどのような具体的な影響を与え、その様態をいかに変容させてきたかを総括する。
特に、表現の自由が「どこまで感情を他者と接続できるか」という能力に依存するようになったという、新たな倫理的状況を思想史的視座と最新の社会状況を踏まえて具体的に論じ、来るべき未来への提言を行うこととしよう。




