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倫理のパラドックス:透明化された内面がもたらす二重性
SIDを用いた「集合的無意識のデータベース化」は、倫理において新たな、そしてきわめて根源的なパラドックスを突きつけた。
「個人の内面を開くことで得られる癒し」と「開かれすぎた内面が支配を招く」という二重性である。
このパラドックスは、倫理が、もはや「秘密を守ること」ではなく、「いかにして自分の内面を晒すかを決めるプロトコル」であるという、SID社会の新たな倫理観の核心をなしている。
内面を閉ざし続ければ、孤独と共感不能性という新たな「恥」に苛まれる。
しかし、内面を開きすぎれば、監視と管理の対象となり、個人の自由が脅かされる。
この二律背反の中で、人間は自身の存在をどのように位置づけ、倫理的な選択を行っていくべきなのか考える必要に人類は迫られた。




