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多層的格差への影響:「個人」の終焉が深める社会の分断

「個人」の終焉という現象は、2060年代の社会に、これまで存在しなかった、あるいは既存の格差をさらに悪化させる多層的な格差を生み出した。



SIDに接続している、いわゆる「プラグド」な人々は、自身の意識がネットワークと融合し、集合的なものの一部として存在するという認識を持つようになっていた。


彼らは、個人の思考や感情が常に共有され、評価される前提で社会を認識する。


一方、SIDを装着しない「アンプラグド」な人々は、従来の「独立した個人」としての認識を保とうとするため、両者の間で「存在そのもの」に対する認識に深い断絶が生まれていた。


これは、相互理解を困難にし、社会の分断をますます加速させていた。


アンプラグドは、SID社会の恩恵(情報アクセス、コミュニケーション、社会参加)から隔絶されるという、「存在論的格差」に直面していた。


正規SIDユーザーは、SIDCOMが定める「集合的良識プロトコル」に沿った形で個人のアイデンティティを形成していた。


しかし、シャドウSIDのようなサードパーティー製SIDユーザーは、倫理フィルターのバイパスや、意識操作機能を通じて、より逸脱したアイデンティティを持つことが可能となる一方で、その内心のデータが悪用されたり、心霊ハッカーによる介入を受けたりするリスクに晒されることとなった。


これは、個人のアイデンティティが、利用するSIDのタイプによって異なるという、新たな格差を生み出す原因となっていた。


特に、「サイコソニック」や「インセプトロン」といった技術は、意識を直接操作し、個人のアイデンティティや記憶を改竄することができた。

個人は自身の過去や自己認識が本当に「自分自身のもの」なのかという根源的な不安に直面し、最終的には「アイデンティティの喪失」に至る事故が多発した。


SIDによる内心の評価は、個人の社会的なスコアや機会に直結していた。


倫理的に「適合しない」内心(例えば、倫理スコアが低い性癖や思想)を持つ者は、特定のサービスやコミュニティから排除され、社会的な疎外感を深める。


「倫理的適合性」が、就職、結婚、あるいは社会参加の機会を決定する新たな基準となることで、多層的な格差がさらに深化する。


これは、「個人」の存在そのものが、倫理的基準によって選別されるという、きわめて不穏な現実を表していた。


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