基盤テクノロジーが性癖の民主化と再定義を深化させる様態
2060年代の基盤テクノロジーは、性癖の民主化と再定義、そしてそれに伴う快楽と恥の共有の様相を、さらに複雑かつ多層的なものへと深化させた。
霊子(Quanon)は、意識の深層、すなわち無意識のゆらぎや、言語化以前の感情までをエンコードし、それを量子情報として空間に伝播させる。
この霊子技術がSIDと結合することで、性癖の共有は、意識的な思考のレベルを超え、無意識のレベルにまで及ぶようになった。
霊子レベルで人間の無意識に潜む性癖や欲望が捕捉されることで、SID倫理プロトコルは、個人の深層に潜む「真の意図」や「潜在的な逸脱」をより高精度に検知し始めていた。
これは、性癖が「無意識の領域」にまで民主化される一方で、その「無意識の性癖」が倫理的評価の対象となることを意味している。
霊子技術の進歩は、特定の性癖を持つ者の「快感の体験」や「欲望のパターン」が霊子によってエンコードされ、それが他者に「移植」される、あるいは共有されるといった、きわめて倫理的に複雑な事態も生み出した。
これは、性癖が「個人の属性」ではなく、「共有・移植可能なデータ」として扱われるという事実にほかならない。
特定の性癖が重力子技術を用いて物理空間に具現化された場合、その「現実化された欲望」に対する倫理的責任は誰が負うのか?
その具現化が他者に不快感や危害を与えた場合、その責任は、具現化を思考した個人にあるのか?
それともそれを可能にした技術にあるのか?
という問いが生じた。
企業や組織が重力子物理学を倫理的判断と結びつけることで、特定の倫理基準に合致しない性癖の物理的具現化を制限する、といった極端な事例も散見された。
これは、倫理が、情報空間だけでなく、物理空間における性癖の表現にまでその支配を拡大することを意味していた。
AIは、SIDを通じて収集される膨大な思考ログを解析し、個人の「潜在的性癖」を予測するようになった。
そして、その予測に基づいて、ユーザーが最も高頻度で快楽を覚えるようなコンテンツを生成し、提示した。
AIが提示する「最適化された性癖」は、ユーザーの欲望を「誘導」し、結果的に性癖の多様性を特定のパターンへと収斂させた。
これは、性癖が「個人の選択」ではなく、AIのアルゴリズムによって「設計される」ものへと変質していく現実を示していた。
AIは、倫理フィルターを通じて、社会的に「不適切」とされる「けしからん」衝動を排除する一方で、より「安全な変態性」を推奨するようになった。
例えば、直接的な性描写を伴わないが、特定の性的連想を誘うような表現をAIが積極的に生成することで、性癖の「無菌化」が進んだのだ。
遺伝子技術の進歩は、人間の「能力」だけでなく、特定の性癖そのものを遺伝子レベルで「設計」するようになった。
企業や社会が、特定の倫理観や社会規範に合致する「倫理的に適合した欲望」を持つ人間を遺伝子レベルで設計するようになったのだ。
これは、特定の性癖が「優れている」とされ、それが社会的に推奨される一方で、そうでない性癖が「劣っている」と見なされ、排除されるという、きわめて優生学的な介入であった。
この「設計された性癖」は、プラグド/アンプラグド、正規SID/サードパーティー製SIDといった既存の格差をさらに深化させた。
例えば、遺伝的に「安全な性癖」を持つ者は、SIDネットワークでの評価が高く、社会的な機会を享受する一方で、そうでない者は、自身の性癖ゆえに社会から疎外される、といった新たな差別の構造を生み出した。
これは、性癖の「民主化」が、実は「欲望の標準化」と「存在の格差」へと繋がる現実を示している。




