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共有される快楽と「分有される恥」のパラドックス

性癖の可視化と「情動プロトコル」化は、人間の「快楽」と「恥」の経験を根本から変容させた。


SID社会では、快楽が「共有」されることで、その体験がより深く、より広範になものとなったのである。


自身の性癖がSIDを通じて他者に直接的に共鳴し、共感を得られることは、かつてないほどの快楽をもたらした。


第1章で論じた「わかる人だけわかる」というカタルシスは、SIDによってより直接的かつ瞬時に体験されるようになった。


これにより、性癖を共有するコミュニティの結束は、より強固なものとなったのである。


複数人の性癖がSIDを通じて融合し、新たな、より複雑な「集合的快楽」を創出するようになった。


例えば、複数のクリエイターの性癖がSIDを通じて共有され、AIがそれを融合したコンテンツを生成することで、単独では生み出せなかったような、より深淵で、多層的な快楽体験が生まれたのである。


だが、それは一種の性癖の暴走を生み出した。


SIDは快楽だけでなく、「恥」までもを共有してしまうという、きわめて深刻なパラドックスをも生み出したのだ。


メカニズムはこうだ。


あなたの内心に潜む、社会的に「恥ずかしい」とされる性癖や思考がSIDを通じて共有されたとする。


その思考が、別のSIDユーザーに「不快」や「嫌悪」といったネガティブな感情を喚起した場合、その「不快感」や「嫌悪感」が、SIDを通じてあなた自身にもフィードバックされる。


これは、他者の感情を自身の感情であるかのように体験する「分有される恥(Shared Shame)」という現象である。


この「分有される恥」は、かつての「見られた恥」とは質的に異なる苦痛をもたらす。


それは、自身の内なる「恥」が、他者の感情を通じて「増幅」され、あたかも社会全体から断罪されているかのような精神的重圧となった。


性癖を抱える人々は、自身の内心が「共感されない」ことで、より深く、存在論的な孤独と羞恥を経験する。


SID社会における「恥」は、もはや「公序良俗に反することを見られること」ではなく、「他者と感情が接続されない=共感不能性によって生まれる情動」へと変化した。


この再定義により、奇抜な思考やフェティッシュな欲望は、共感される限りにおいて倫理的になりうる一方で、共感されない性癖は、その存在自体が「倫理的に逸脱している」と評価され、社会的な排除のリスクを負うようになった。


これは、倫理と「人気」の境界が曖昧になるという、奇妙な現象といえた。


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