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性癖の可視化:私的な領域から公共の対象へ――「思考の聖域」の崩壊

そもそも個々人の「性癖」は、その本質において、きわめて個人的で秘匿された領域であった。


それは、他者に明かされることなく、個人の内なる宇宙に閉じ込められ、羞恥と快楽の微妙なバランスの中で存在していた。


性的な欲望やフェティシズムは、公に語られることのない「秘密」であり、その秘匿性そのものが、ある種の倒錯的な快楽や、個人のアイデンティティの核心を形成していたとも言える。


しかし、2050年代以降のSID社会は、この「思考の聖域」を根本から破壊した。


SIDが、人間の言葉になる前の思考、感情のゆらぎ、無意識の連想、さらには生理的反応といった膨大な「思考フロー」をリアルタイムで読み取り、ネットワークに共有するようになったことで、もはや内心の「秘密」は存在しなくなったのである。


あなたが心の中で「美少女がお茶漬けを食べている画像」に対する性的な興奮を覚えたとする。


SIDは、その思考の情動パターン、脳波の特定の活動、そしてそれが引き起こす微細な生理的反応を即座にデータ化し、あなたの思考ログとして記録する。


そして、このログは、あなたが意識的に「発信」しなくても、ネットワークの特定の領域で共有される。


これは、「発信せずとも共有される」という、これまでのコミュニケーションの前提を覆す、根源的な変化であった。


性癖が透明化されたことで、個人の内なる欲望は、常に他者やシステムからの評価に晒されるようになった。


これにより、性癖は、もはや「個人の自由な領域」として存在するのではなく、ネットワークの「公共の対象」として認識され始めたのである。


これは、特にマイナーな性癖を抱える人々にとって、深い不安と自己認識の変容をもたらすこととなる。


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