多層的格差と倫理プロトコル:管理と排除の深化
SID倫理プロトコルは、2060年代の社会における多層的格差を、さらに深化させるメカニズムとして機能した。
SIDに接続している「プラグド」な人々は、自身の無意識が可視化され、評価される前提で倫理観を形成していた。
彼らは、内心の「健全性」を意識し、倫理プロトコルに適合しようとする傾向があった。
一方、SIDを装着しない「アンプラグド」な人々は、従来の「表に出さなければ内心は自由」という倫理観を持つため、両者の間で倫理的認識に深い断絶が生まれたのは当然の帰結だった。この状況は、相互理解を困難にし、社会の分断を加速させていった。
正規SIDユーザーは、SIDCOMが定める「集合的良識プロトコル」に沿った倫理観を持つ傾向があった。
対して、シャドウSIDのようなサードパーティー製SIDユーザーは、倫理フィルターのバイパスや、意識操作機能を通じて、より逸脱した倫理観を持つことを当然のものとしていた。
倫理的自由度が、利用するSIDのタイプによって異なるという、新たな格差を生み出すことになった。
使っているOSのタイプによって格差が生まれたのだ。
SIDによる内心の評価は、個人の社会的なスコアや機会に直結していた。
倫理的に「適合しない」無意識(例えば、倫理スコアが低い性癖や思想)を持つ者は、特定のサービスやコミュニティから排除され、社会的な疎外感をさらに深めていった。
「倫理的適合性」が、就職、結婚、あるいは社会参加の機会を決定する新たな基準となることで、多層的な格差がさらに拡大したのである。




