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山中にて
自殺の準備をするのも慣れたものだ。山中に入ってすぐ丈夫な枝木を見つけてロープを括る。ロープに首を通し、足場の岩を蹴り飛ばす。
これによって気道が閉塞し、脳への血流も止まり、死に至るはず……。だというのにいつまで経っても気が確かなままだ。
首元がさっき蹴り飛ばした岩のように硬くなり、ロープが食い込むのを拒んでいる。
僕の「力」のせいでこうなることは理解していたはずなのに、現実を直視するとやはり絶望する。
「君は岸田純だね。」
背後から唐突に男の声がした。焦った。僕の力を露わにしないようにわざわざ山中で自殺を計ったというのに、人に見られていたとは。
男は続けざまに言う。
「焦らなくていい。僕は田中。君と同じ物を硬化させる能力を持っている。」
田中と名乗ったその男は、僕を括り付けているロープを解きながら続ける。
「君を『こだま』に入所させたのは僕なんだ。」