第四話 新たなクエストへ
ナスィは街外れの古びた小屋の中で、手入れの行き届かない椅子に腰を下ろしていた。
窓の外では、冷たい風が木々を揺らしている。彼は剣を磨きながら、レサーとの会話を思い出していた。
「俺が立ち直るまで…待っていてくれるのか?」
あの時の自分の声は、まるで他人のもののように遠く感じられた。彼女の真剣な目が頭を離れない。だが、それと同時に、ベチの冷たい言葉もまた、彼の心に深く刻まれていた。
「俺は…何をしてるんだ。」
ナスィは剣を置き、握りしめた拳を見つめた。その手は、これまで何度も戦ってきたはずなのに、今は空虚さで満たされているように感じた。
その時、小屋の扉が勢いよく叩かれた。
「ナスィ!」
慌てた様子の中年の冒険者が、荒い息をつきながら飛び込んできた。彼はギルドで何度か顔を合わせたことがある男だった。
「どうした?」ナスィは眉をひそめながら尋ねる。
「大変なことになったんだ!北の山脈にある村が魔物に襲われて、壊滅状態だと…。」
ナスィはその言葉に目を見開いた。
「それで?」
「村の生き残りを助けるために、ギルドが急遽クエストを出したんだ。でも危険度が高すぎて、誰も引き受けようとしないんだよ。」
「そんなクエストをわざわざ俺に知らせに来たのか?」
男は少し口ごもった後、小さく頷いた。
「…お前ならやるんじゃないかと思ったんだ。ギルドじゃ目立たないけど、お前が本当に実力があるってことを知ってる奴もいるんだよ。」
ナスィはその言葉を聞き流しながら、机に置いた剣を見つめた。そして、ふと問いかけるように男を見た。
「それで、どこだ?その村は。」
男は驚いた表情を浮かべたが、すぐに地図を取り出し、指をさした。
「ここだ。北の山脈にあるエラリス村。魔物が巣を作ってるらしくて、周囲の村々にも被害が出始めてる。」
ナスィは地図をじっと見つめ、無言で立ち上がった。彼の目には、再び何かを掴むための決意が宿っていた。
「ありがとう。俺が行く。」