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第三十六話 別れ

朝日が村を淡く照らし始めるころ、ベチは静かに宿を出た。


昨夜、勇者エガワと話したことで、自分の進むべき道が決まった。

ここに残る理由は、もうない。


(……最後に、ちゃんと挨拶くらいはしないとね)


ナスィとレサーの姿を探しながら、村の広場へ向かう。

ナスィのことだから、朝早くからギルドで仕事の準備でもしているだろうと思っていたが——


「……ん?」


意外にも、二人はすぐに見つかった。


ナスィとレサーは、広場の端にある大きな樹の下で、朝のひとときを過ごしていた。

レサーが何かを話し、ナスィが穏やかに相槌を打つ——そんな何気ない光景。


それが、どうしようもなく胸を締めつけた。


(……これが、今のナスィなんだ)


もう、自分が知っていた彼とは違う。

自分が隣にいるべき人ではない。


「ベチ?」


気配に気づいたナスィが、こちらを振り向いた。

レサーも驚いたように目を瞬かせる。


「こんな朝早くに、どうしたんだ?」


「……少し、話があるの」


ナスィは小さく頷くと、レサーと視線を交わし、彼女も静かに頷いた。


「じゃあ、場所を変えようか」


「いいや、ここでいい」


ベチは意を決し、真っ直ぐ二人を見つめた。


「私……今日、この村を出るよ」


ナスィの表情がわずかに変わる。

レサーも驚いたように目を見開いた。


「そうか」


ナスィの返事は短かった。


「……思ったより、驚かないのね」


「まあ、なんとなく……そんな気はしてた」


「……」


ベチは少し唇を噛んだが、すぐに顔を上げた。


「ナスィ、レサー。……私は、もう吹っ切れた」


ナスィはじっとベチの言葉を待っている。

レサーも、少し不安げな表情を浮かべながら、彼女を見つめていた。


「私は、自分の選んだ道を間違えたと思ってた。でも……違ったんだと思う」


静かに、自分の心を言葉にしていく。


「私は、あのとき勇者のパーティーに入る道を選んだ。それは……私にとって間違いじゃなかった。ただ、ナスィ、お前が強くなったのを知って……」


(自分は間違っていたのかもしれないって)


そう思ったのは事実だった。


だが、違った。


「……お前はお前の道を進んで、私は私の道を進んでる。ただ、それだけだったんだ」


ベチはふっと笑う。


「……未練がなかったとは言わない。でも、ようやく整理がついたよ」


ナスィは静かに頷いた。


「そうか」


「うん……だから、私は戻る。勇者のもとへ」


レサーが、ホッとしたように微笑んだ。


「よかった……ベチさん、ずっと悩んでるみたいだったから」


「……レサー」


ベチは、今までまともに向き合わなかった彼女を見つめた。


「……私は、あなたのことが嫌いだった」


レサーは目を瞬かせる。


ナスィが少し驚いたように視線を向けたが、ベチは続けた。


「ナスィの隣にいるのが、自分じゃないのが嫌だった。でも、今なら分かる。あなたが彼の隣にいるのは……当然のことだったんだ」


レサーは小さく息を飲んだ。


「だから……ナスィを頼む」


「……はい」


レサーは少し涙ぐみながら、しっかりと頷いた。


ベチは最後にナスィを見る。


「ナスィ、私はもうお前を追いかけない。だから……お前も、前を向いてくれ」


「……分かってるよ」


ナスィの返事は、いつものように短かった。


けれど、それだけで十分だった。


「……じゃあな」


そう言って、ベチは背を向ける。


もう、振り返らなかった。


ナスィがどんな表情をしているのかも、レサーがどんな気持ちなのかも、もう考えない。


(私は、私の道を行く)


村の門をくぐり、歩き出す。


朝日が昇り、道を照らしていた。


それはまるで、彼女の新たな旅路を祝福する光のようだった。

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