第三十二話 諦めない
ナスィとレサーがギルドへ向かった後、ベチはひとり夜の街を歩いていた。
この村は、昔から変わらない。石畳の道も、街灯の灯りも、家々から漏れる暖かな光も。
(だけど、変わったのは……私の方、なのかもしれない)
ふと立ち止まり、夜空を見上げる。
ナスィと一緒に歩んできた日々は、もう過去のもの。
それでも、まだ諦められない自分がいる。
(私は、どうしたいんだ……?)
自分に問いかけても、答えは出なかった。
〜ギルドにて〜
ナスィはギルドの奥の小部屋で、レサーと向き合っていた。
「……ベチさん、ここに残るつもりなんでしょうか?」
レサーは、静かにナスィを見つめた。
「そう……なんじゃないか、と思う」
ナスィの言葉に、レサーは少しだけ眉を寄せた。
「クエストも、一緒に行くって……それって、つまり……」
ナスィは答えなかった。
レサーの心の中では、不安が渦巻いていた。
ベチはナスィの元婚約者。
彼女の中に、まだナスィへの想いが残っていることは明らかだった。
それに、ナスィも……
「……ナスィさんは、どう思ってるんですか?」
「俺は……」
少しだけ、言葉に詰まる。
レサーの目が、不安げに揺れた。
「私は……ナスィさんが好きです」
まっすぐに告げられた言葉に、ナスィは驚いたように目を見開いた。
レサーの頬は赤く染まっている。
「ベチさんが来たからって……私の気持ちは、変わりません」
ナスィは、しばらく黙ったままだった。
だが、次の瞬間――
「レサー」
優しく彼女の肩に手を置いた。
「俺も、お前が大切だよ」
その言葉に、レサーの瞳が揺れる。
しかし、まだ不安は消えない。
(ベチさんが、このままここにいたら……?)
自分の気持ちを貫くためには、どうすればいいのか。
レサーは、そっとナスィの手を握りしめた。
翌朝、ベチはギルドへ向かった。
ナスィと一緒にクエストを受けるために。
だが、そこにはすでにナスィとレサーがいた。
二人は並んで、何かを話している。
(……)
胸の奥が、ちくりと痛んだ。
レサーの表情は柔らかく、ナスィも穏やかだった。
そこには、二人だけの空気があった。
ベチは、そっと拳を握る。
(それでも……私は)
ナスィに、もう一度振り向いてもらうために。
ここに残ると決めたのだ。
「おはよう、ナスィ」
声をかけると、ナスィがこちらを向いた。
「ベチ……」
その表情には、少し戸惑いがあった。
だが、ベチはそれを振り払うように微笑む。
「今日も、一緒にクエスト行こう?」
レサーが、不安げにナスィを見る。
ナスィは、少しだけ考えた後、頷いた。
「……ああ、分かった」
レサーの視線が、僅かに揺れる。
ベチは、その視線を感じながらも、意識しないふりをした。
(私は……まだ、諦めてないから)
そう心に決めて。




