第三十一話 押し殺す気持ち
クエストを終えたナスィとベチは、ギルドへと戻った。
依頼達成の報告を済ませた後、二人はそのまま広場へと歩く。
「悪くなかったな、久しぶりに一緒に戦うのも」
ベチが満足げに言うと、ナスィはちらりと彼女を見た。
「……お前、何が目的なんだ?」
その問いに、ベチの足が止まる。
「え?」
「お前、ここに残るつもりなのか?」
ベチは一瞬、言葉に詰まった。
「……そう、なるのかな」
曖昧に返すと、ナスィは少しだけため息をついた。
「俺はてっきり、勇者のパーティに戻るつもりだと思ってた」
「……」
「でも、お前は戻らずにここにいる。クエストに同行するって言ったのも、単なる思いつきじゃないはずだ」
ナスィの真っ直ぐな視線に、ベチは目をそらした。
(……どうして、私はここにいるんだろう)
勇者の仲間たちとは、決して険悪になったわけではない。
だが、自分がどこかで迷っているのは確かだった。
「……もっと知りたいんだ」
「何を?」
「お前のこと」
ベチは、まっすぐナスィを見つめた。
「私は、ずっとお前を分かっているつもりだった。でも、違った。お前は私が思っていたよりもずっと強くて……それに……」
言葉を続けようとした瞬間――
「ナスィ!」
遠くから、聞き慣れた声が響いた。
振り向くと、そこにはレサーがいた。
彼女は心配そうにナスィのもとへ駆け寄ると、ベチにちらりと視線を向けた。
「二人とも、無事だったんですね」
「ああ。魔獣の討伐は問題なかった」
ナスィが答えると、レサーはほっとしたように息をつく。
「よかった……」
しかし、その表情はどこか複雑だった。
彼女の視線が一瞬、ベチへと向けられる。
それに気づいたベチは、気まずそうに目をそらした。
(……そうだ)
今のナスィの隣にいるのは、自分ではなくレサーなのだ。
その事実を、改めて突きつけられた気がした。
「ナスィ、ちょっといいですか?」
レサーは少し控えめな声で言う。
「ん?」
「……ギルドの方で、話があるんです」
ナスィは少しだけ考えた後、ベチの方を見た。
「悪い、ちょっと行ってくる」
「あ、ああ……」
ベチは、レサーの背中を見送りながら、自分の胸の奥にあるもやもやした気持ちを押し殺した。
(私……何をしてるんだろう)
自問自答するように、ギュッと拳を握る。
ナスィの横に並びたくて、ここに残ると決めた。
でも、彼にはもうレサーという存在がある。
それなのに、自分はまだ――
「……」
ベチは、静かにその場を去った。
どこへ行くのかも分からず、ただ夜の街を歩く。
心の中に残るのは、後悔なのか、それとも――




