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第二十九話 証明

ベチが村に残ることを決めた翌日、ギルドは朝からざわついていた。


「ベチがまたギルドの依頼を受けるらしい」

「え、本当か? もともと勇者パーティーの一員なんだし、もう個人で動くことはないかと思ってたが……」

「どうやらナスィと組んで、しばらくクエストをこなすつもりらしい」


噂はすぐに広まり、レサーの耳にも届いた。


「……え?」


手に持っていた書類が思わず震えそうになる。


「ナスィとベチが、また組む……?」


昨日、ナスィは「気まずかった」と言っていた。彼の態度からして、ベチに未練があるようには思えなかった。


それでも、ベチは諦めていない。


(……どうしよう)


焦りが胸を締めつける。


ナスィはもう、ベチに気持ちがないのだと分かっている。

けれど、一緒に行動する時間が増えれば、ベチの気持ちがナスィに届いてしまうかもしれない。


――もし、ナスィが揺らいでしまったら?


そんな考えが頭をよぎり、レサーは強く首を振った。


(ナスィはそんな人じゃない。それは分かってる……でも)


それでも、心のどこかで不安が拭えない。


「レサー?」


不意に、ナスィの声がした。


「……!」


振り向くと、そこにはいつものように落ち着いた表情のナスィが立っていた。


「どうした?」


「い、いや……」


レサーは誤魔化すように笑おうとしたが、うまくいかなかった。


ナスィは少し眉をひそめてレサーを見つめる。


「……ベチのことか?」


「……」


図星だった。


レサーは俯き、少しだけ唇を噛んだ。


「……気にしなくていい。俺はお前を選んだんだ」


ナスィは穏やかにそう言った。


レサーはゆっくりと顔を上げる。


「でも……一緒に行動する時間が増えたら、気持ちが揺れるかもしれないって……そう思わない?」


ナスィは少し驚いたように目を見開き、次の瞬間、小さく笑った。


「俺はそんなに優柔不断か?」


「……」


「レサー、お前は俺を信じられないのか?」


そう言われると、レサーは何も言えなかった。


「……信じてるよ」


「なら、心配するな」


ナスィの大きな手が、そっとレサーの頭を撫でる。


「俺の隣には、お前がいる。それは変わらない」


「……ナスィ」


レサーはほんの少し、目頭が熱くなるのを感じた。


(そうだよね、ナスィは私を選んでくれたんだから)


それでも、不安が消え去ったわけではなかった。


その日の昼、ナスィとベチはギルドを出発した。


依頼内容は山道で発生した魔獣討伐。難易度は中程度だったが、経験者二人で挑めば特に問題はないだろう。


「……ナスィ」


並んで歩く中で、ベチがぽつりと呟いた。


「なんだ?」


「……本当に、レサーのこと好きなんだな」


ナスィは少し驚いたようにベチを見る。


「……今さらだな」


「そっか」


ベチは少しだけ寂しそうに笑った。


「……それでも、お前に認めてもらいたいんだ」


「認める?」


「私だって、まだお前と並べるくらい強いんだって……」


ナスィはしばらくベチを見つめていたが、やがてゆっくりと頷いた。


「……なら、証明してみろ」


「……!」


「俺はもう、昔みたいにお前の後ろを追いかけることはしない。俺の隣に立ちたいなら、力を示せ」


ベチは少し驚いた表情を見せたが、すぐに笑った。


「……いいよ。やってやる」


そして、二人は再び剣を取る。


それぞれの思いを抱えながら――。

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