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第十五話 光が照らす新たな道

戦いの後の静寂が、辺りを包み込んでいた。


霧が晴れ、星空が顔を覗かせる中、一行は傷つき疲れ果てた体を引きずりながら、ようやく落ち着きを取り戻しつつあった。


エガワが剣を鞘に収め、仲間たちを見渡す。

「無事か? 誰も死んでいないな。」


リエレンは矢筒の中身を確認しながら深い溜息をついた。

「なんとか、ね。けど、こんなの何度もはごめんよ。」


マジアも肩で息をしながら、魔法で擦り切れた自分のローブを払い、呟いた。

「私たちだけだったら……きっと全滅していたわ。」


その視線の先には、膝をつきながらも剣を握り締めるナスィの姿があった。


ベチは、ナスィと彼を支えるレサーの姿を見つめながら、胸の中で渦巻く感情を抑えきれなかった。


(あのナスィが……こんな戦いを切り抜けるなんて。)


かつて「田舎に埋もれるだけの無名の男」として見下していた彼が、今、自分たち勇者パーティーすら追い越すほどの強さを見せた。


(信じられない。けれど……これが真実なのか。)


握りしめた自分の剣を見る。手のひらの汗が冷たく滲む。戦士としての自尊心が大きく揺さぶられていた。


エガワがそんな彼女の肩に手を置いた。

「ベチ、落ち着け。お前がどう感じようと、彼が俺たちを救ったのは事実だ。」


「でも……!」

ベチは何かを言い返そうとしたが、その言葉は喉元で途切れる。


一方、ナスィは疲弊した体を動かしながらも、剣を手放そうとはしなかった。その姿にレサーは必死で声をかける。

「ナスィさん、もう休んでください! これ以上は――」


しかしナスィは首を振り、小さな声で呟く。

「大丈夫だ……俺は、まだやれる。」


その声には、かつての彼からは想像もつかないほどの力強さと自信が宿っていた。


「けど……」

レサーは言葉に詰まりながらも、彼の顔をじっと見つめた。彼女にとってナスィはいつも孤独に戦い続ける存在だった。それが今日、明確な形で証明されたのだ。


「俺がここまで来られたのは、君が俺を信じてくれたからだ。」

ナスィは疲れた微笑みを浮かべながら、レサーにそう告げた。その言葉にレサーは思わず涙を浮かべる。


「私は……ただ、あなたが無事でいてほしかっただけです。」


ナスィは彼女の言葉に一瞬目を閉じ、静かに答えた。

「それだけで十分だ。」


戦場から少し離れた岩場で、エガワがナスィに話しかけた。

「お前の力には驚かされたよ。これだけの実力を持ちながら、どうして今まで無名のままでいたんだ?」


ナスィは少し考え込みながらも、淡々と答えた。

「俺は強くなる必要があった。だけど、それを誰かに見せるためじゃない。ただ、自分のために剣を握ってきたんだ。」


その答えにエガワは目を細める。

「なるほどな……。お前の覚悟が、俺たちの甘さを浮き彫りにしたよ。」


リエレンが軽く肩をすくめて口を挟む。

「確かに。こんな無茶な状況で戦い続けられる人、そういないわ。」


しかしベチだけは、口を閉ざしたまま遠くを見つめていた。その沈黙に気付いたリエレンが、そっと彼女の肩に触れる。

「ベチ、大丈夫?」


「ええ……」

ベチはそう答えながらも、ナスィの背中を見つめ続けていた。その視線には、かつての彼女にはなかった複雑な感情が宿っていた。


翌朝、傷の手当を終えた一行は、元のルートへと戻る準備を整えた。


ナスィは静かに立ち上がり、剣を背中に背負う。その様子を見たレサーが近づいてくる。

「もう少し休んでもいいんですよ。無理をしないで……。」


「ありがとう。でも俺は大丈夫だ。」

ナスィは短く答えた後、空を見上げた。


その時、エガワが一行に向かって声をかけた。

「ナスィ、もしよかったら、俺たちの旅に加わる気はないか?」


その提案に、周囲が驚きの声を上げる。特にベチは目を見開いてエガワを見つめた。

「えっ、どうして急に……!」


エガワは腕を組みながら答える。

「こいつの実力を見ただろう? 俺たちには、こいつみたいな戦士が必要だ。」


しかしナスィは首を横に振った。

「気持ちはありがたい。でも、俺には俺のやるべきことがある。」


その答えに、エガワは少し寂しそうな顔をしながらも頷いた。

「分かった。だが、いつでも俺たちを頼れ。お前なら歓迎する。」


ナスィは軽く微笑みながら手を振り、レサーとともに別の道へと歩き出す。


遠くからナスィたちの姿を見送りながら、ベチは複雑な表情を浮かべていた。


(あの背中が、こんなにも遠いものだったなんて……。)


リエレンが横から声をかける。

「未練があるなら、素直に伝えれば?」


ベチは少しだけ笑みを浮かべたが、その瞳には揺るぎない決意が宿っていた。

「私は……私の道を進むわ。」


その言葉は、自分自身への宣言のようでもあった。


一方、ナスィは歩きながら、レサーにそっと問いかけた。

「俺がここにいる意味を、君が教えてくれた気がする。」


レサーは驚いた表情を見せながらも、すぐに微笑んだ。

「じゃあ、これからも私があなたのそばにいていいですか?」


ナスィは少しだけ考えた後、短く答えた。

「もちろんだ。」


霧が晴れ、新たな光が二人の行く道を照らしていた――。

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