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第十四話 決意

勇者たちを囲む霧の向こうに、無数の赤い瞳が輝いていた。それは先ほどナスィが討った死の巣の主を慕うように集まった下位の魔物たちであり、彼らの咆哮が戦場の静寂を切り裂いた。


エガワは剣を握り直しながら全員に指示を飛ばす。

「マジア、結界を強化できるか? それとも攻撃に転じるべきか。」


マジアは迷いながらも、周囲を見回して判断を下す。

「今の結界では時間稼ぎが限界だ。攻撃しながら抜け道を作るしかない!」


リエレンはすでに弓を引き絞り、次々と飛び込んでくる魔物を狙い撃つ。

「抜け道なんて悠長なことを言ってられる状況じゃないわね。もう全力で迎え撃つしかない!」


ベチは剣を抜き、ナスィの横で身構えた。

「奴が一人でここまで来た道のりを、私たちが引き返せないなんて笑われるわ。」


その言葉にエガワが苦笑する。

「なら、笑われないように証明しよう。ここを突破するぞ!」


そのころ、ナスィは微かに意識を取り戻しつつあった。夢とも現実ともつかない世界で、自分を呼ぶ声が響いている。


「ナスィ……あなたはどうして戦い続けるの?」


その声はレサーだった。彼女の問いかけに、ナスィは答えを見つけようともがく。


(どうして、俺はここにいるんだ? ベチを見返すため? 自分を証明するため? それとも……。)


その時、彼の瞼を濡らす感覚があった。目を開けると、心配そうに顔を覗き込むレサーの姿があった。


「ナスィ、よかった……! 目を覚ましたんですね!」


彼女の震える声に、ナスィは力なく微笑む。

「俺は……死んだと思ったけど、まだ生きてるみたいだな。」


レサーはこみ上げる涙を拭いながら、ナスィの手を握りしめる。

「どうしてこんな無茶をするんですか? あなたがいなくなったら、私は……。」


ナスィは疲れた顔をしながらも、少しだけ力を込めて答える。

「俺がここにいる理由を……見つけたかったんだ。でも、まだ答えは分からない。」


その言葉にレサーは黙って頷いた。彼の答えを急かすことなく、ただそばにいることを選んだ。


結界の外では激しい戦闘が繰り広げられていた。勇者パーティーは四方八方から押し寄せる魔物たちを迎え撃ちながら、少しずつ結界を中心に戦線を構築していく。


「マジア、もう少し結界を広げられるか?」

エガワが叫ぶ。


「無理だ! これ以上広げると崩壊する!」

マジアは全身から魔力を放出しながら答えた。その疲弊した顔は、すでに限界が近いことを示している。


「リエレン、どうだ! 数を減らせているか?」

「これじゃキリがないわ!」


リエレンの放つ矢が次々と魔物を貫いていくが、それでも次から次へと湧き出てくる魔物たちに対処しきれない。


「このままじゃ全滅する……!」

ベチが息を切らしながら呟く。だが、その時、結界の中からナスィの声が響いた。


「俺が行く……。」


ふらつきながら立ち上がるナスィに、レサーが驚いて声を上げる。

「ダメです! あなたはまだ戦える状態じゃ……。」


だがナスィは静かに首を振る。

「俺が戦わなければ、みんなが危ない。それに……この戦いを終わらせるのは俺の責任だ。」


その言葉にエガワたちも驚きの目を向けた。

「ナスィ……お前、一体どれだけ無茶をするつもりだ?」


ナスィは長剣を握りしめ、疲れた体に力を込める。

「無茶だって分かってる。でも、ここで怯えている暇はないんだ。」


レサーは震える手でナスィの腕を掴む。

「一人で無理をしないでください……! あなたがいなくなったら、私は……!」


ナスィは彼女の手にそっと触れ、微笑む。

「ありがとう、レサー。俺はまだ死なないよ。」


その言葉とともに、彼は結界を飛び出し、魔物たちの群れへと突っ込んでいった。


ナスィの奮闘によって魔物の動きが乱れ始める。彼の攻撃はまるで流れるように正確で、次々と魔物を斬り伏せていく姿は、勇者たちをも圧倒させるものだった。


「信じられない……。あいつ、なんでこんなに……。」

ベチはその背中を見つめながら、内心で動揺を隠せなかった。


エガワは剣を振り上げながら叫ぶ。

「お前たち! ナスィに続け! この戦いを終わらせるぞ!」


ナスィの行動が勇者たちにも再び火を灯し、一行は力を合わせて魔物たちを撃退し始めた。


激しい戦いの末、最後の魔物が倒れ、霧の中に静寂が戻った。ナスィは膝をつき、荒い息をつきながら剣を地面に突き立てる。


レサーは真っ先に彼のもとへ駆け寄り、その体を支えた。

「もう無理をしないでください……。これ以上は……。」


ナスィは彼女に微笑みかけながら、小さく呟いた。

「俺は、ここにいてもいいのかもしれないな……。」


その言葉を聞いたレサーは、涙を浮かべながら彼の手を強く握り返した。


一方で、ベチは彼らの様子を少し離れた場所から見つめていた。その胸の中に生まれる感情を言葉にすることはできなかったが、彼女の視線はどこか複雑なものを孕んでいた。

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