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エピソード1

 一面、蒼い焰に包まれた空間。 空は暗く、月に薄っすらと雲がかかり月明かりも少ない。 だが、蒼い焰によって周りはよく見える。 建物も、生き物も植物だって一つもない。 音もなくただただ蒼い焰が揺らめいている。


 ああ…まるで、物語に出てくる人魂みたいだ。 


 ここは、地獄かなにかだろう。 だって、俺は今までに何人もの人を……地獄に落ちても仕方ねぇか


 ズシン…  ズシン…


「はっ! 閻魔様の御出ましか? この首でも取りに来たのかよ。 ご苦労なこって」


 後ろから重厚感のある音。 そして、徐々に近づいて来る。 一歩、また一歩と。 そして、直ぐ後ろまで来ると音が停まる。 閻魔という普通では拝めない存在の顔を一目見てやろうと振り向くと。


「カッカッカッ! マジもんの化け物かよ!! アハハハは」


 蒼い焰を纏った鬼が大きな口を開けて喰らいつこうとしていた。


――――――――――


 ピッ…ピッ…ピッ…ピッ…


 消毒液の匂い。  規則的に響く電子音。 固くもなく柔らかくもない絶妙な硬さの寝心地の悪いベッド。 目をゆっくり開いていくと白い天井が見えた。


「…病院?」

「まなか!」


 …寝起きに耳元で叫ばないでほしい。 


「茜?」


 西蓮寺 茜(さいれんじ あかね)。 同い年で16歳。 星彩学園高等部の学生で冒険者。 同じパーティーで活動している。 茜は、後方支援系の冒険者だ。 簡単な治癒魔法と身体強化や属性や状態の付与でサポートしてくれている。

 私は、剣士系の冒険者で、前衛だね。 あ、 名前は葦名(あしな) 舞奈香ね。 もう一人パーティーメンバーがいるけど、来てないみたい。


「待ってて! ミソラちゃん呼んでくる!」


 茜が、そう言って立ち上がるとスタタタタッと速歩きで、病室を出て行って、直ぐに金髪のお人形さんみたいな少女。星奈 美空(ほしな みそら)が入って来た。


「まなか!!」


 美空が、入ってくるなり抱きついてきた。 シャンプーの匂いとほのかに甘い匂いが鼻腔をくすぐる。 ギュッと腕に力を込めている美空の腕は、僅かに震えていた。


(心配かけちゃったね…)


 美空の背中に腕を回して、トンと叩く。


「もう! 馬鹿! あんなに無茶して! あんな奴放っておけば良かったのに!」

「悟君は…どうなったの?」


 一緒に鶴舞ダンジョンに潜ったパーティメンバーで、私達を死の淵に追いやり、見捨てようとした同じ学園の生徒。 沢田 悟(さわだ さとる)のあの後の事が気になり美空に聞いた。


「警察に捕まった。 国家を揺るがす大罪人としてね」

「私達も…?」

「うんうん。 私達、配信してたじゃない? 悟のあの凶行を確かに停めなかった。 でも、私達はあの行為が何をもたらすのか知らなかった。知らない者に停めるすべは無いって事でお咎め無し。だって」

「そう。 っ!! おじさんは!? あの時!助けに突入して来た!」

「「…」」


 私がそう聞くと、二人共顔を見合わせて黙った。 そして、重く口を開けた。


「いい? 落ち着いて聴いて」

「うん」

「あの方は…亡くなった」

「…え?」

「茜、カーテン開けて」

「まだ、早いんじゃ…」

「いいから。 いずれ、知ることになる」

「何を、言っているの? ねえ…二人共!?」

「うん…わかった」


 茜が、カーテンを開けると外の様子が私の知る景色では、亡くなっていた。

 沢山の崩れた家屋やビル群。 そして、未だ火の手があるのか黒い煙が立ち上っている所もある。 そして、いたるところで爆発と土煙が舞っている。


「何…コレ」

「悟が、うんうん。私達のあの時の行動の結果だよ。 順を追って説明するね」


 二人の説明が、始まった。  おじさんが一人ボス部屋に残ってボスと戦った事。  政府がダンジョンを破壊してモンスターを街解き放ってしまった事。 黒装束の集団がおじさんを襲い出した事。 また、黒装束の集団がドラゴンを打ち倒し、その肉を喰らった事。 ドラゴンの肉を喰らった黒装束達は、超人的な身体能力を得て、無差別に攻撃を始めた事。 おじさんと黒装束の人達の戦いを見た政府がその異常性を見つけ最終手段に打って出た事。 おじさんは、救出しに来た自衛隊の人達数人で、街に生き残って取り残された人達を助け、街の外に逃がした事。 その際、おじさんは、黒装束の人達を街の外に出さないように食い止めて、政府の最終手段に巻き込まれた事。 そして、この一連の事件から政府が国民から信用を失い、暴動が起きていること。 政府陣営と、黒装束の集団。 街に跋扈するようになったモンスター。 暴徒と化した国民。 冒険者の入り乱れた戦いが始まった事。 


「……」

「コレが、現状だよ」

「そんな…おじさんが……。 私達のした事で街まで!」


 舞奈香は、自分達のしでかしてしまった事で引き起こった惨事に後悔と怒りに身を震わせた。

 

 トスッ!トスッ!トスッ!


 目蓋に涙を溜めて、ベッドの布団ごと自分の足を殴りつけた。


「舞奈香!?」

「ちょっと!何をしているの!? やめなさい!」


 茜と美空が突然、自分を殴りつけ始めた舞奈香を慌てて止めに入る。


「ぅ、ぁ…あぁああああ、ぅあぁあぁぁぁああ!」

「やめなさい! 舞奈香! 茜、ナースコール! 早くっ!」

「う、うん!」


 その後、駆けつけたナースと医師によって取り押さえられた舞奈香は、薬を投与されて、眠りについた。


「まったく、君たちねぇ。 意識が戻ったばっかの患者に負担になるような事を話しちゃ駄目だよ。 ただでさえ精神的に不安定なんだからさ」  

「「ごめんなさい」」

「薬で眠らせたけど…君たち冒険者は、身体能力が上がってる分、治癒能力も上がってる。 つまり、薬の効きも普通の人より短い。 直ぐに目を覚ますだろう」

「「はい」」

「あまり彼女の負担になるような事はしないように。 特に、今はね」

「「はい」」


 茜と美空は、医師とナースに厳重に注意をされた後、舞奈香が目を覚ますのを待った。

 舞奈香は目を覚ましても、心此処あらずといった風で、外の変わり果てた世界の空を眺めていた。 そんな日が何日も過ぎる。


「舞奈香?」

「…冒険者ってこれから人とも戦うのかな?」

「それは…」

「嫌だなぁ。 人とは…戦いたくないよ」


 私達は、モンスターと戦って小遣いを稼いでいる。 生計を立てている人もいる。 そして、モンスターを倒すことによって街が、国が潤う。そうして一つの流れが出来て国が運営されていた。 でも、人が相手だとそうもいかない。 流れるのは人の血のみだ。 それでも、人達は戦っている。 なんで? どうして…とそんな思考がぐるぐると頭を巡っている。


 バァアアン!


「キャッ!」

「なに!?」

 

 病室のドアが物凄い勢いで開けられて、ドカドカと入ってくる人がいた。


「あんた! こんなとこでなにしてるの!? あんたがこんなとこに居るせいで水道もガスも停められたじゃない! どうしてくれるのよ!」


 入ってくるなり舞奈香を怒鳴りつけている。 

 長い髪を金髪に染めているがボサボサで、だけども、着ている服は、やけに派手で、いかにもお金が掛かってますって感じのものだった。 手を見ると、ネイルもしている。


「母さん…」

「ほら! さっさと金を出しなさい!」

「無いよ」

「ふざけんじゃ無いわよ!? 無いならその体を売ってでも稼いで来なさいよ!」

「ちょっと!」

「関係無いガキは黙ってなさい!」

「黙っていられるわけないでしょ!」

「茜、良いから」

「舞奈香!」

「いつもの事だから。 ね?」

「お友達と喋ってないで出すもん早くだしなさいよ! 冒険者カードを出しなさい」

「……」

「この…いい加減にしなさい!!」


 舞奈香の母親が手を振り上げた。 舞奈香はには見慣れた光景。 慣れていた。 直ぐに、頬に衝撃が来るのだろう。 目を瞑りその瞬間を待つ。


『ごめんなさい。 いつもご馳走になっちゃって…』

『気にすんな。 それより、そろそろ聞いてもいいか?』

『はい?』

『どうして、あんなのを母と呼ぶんだ? あんなの親でもなんでもない。 ただのお前の稼いできた金を吸い尽くすただのバケモンだろ?』

『ははは! バケモンって!』

『おい』

『ははは、はあ…。 確かに辛いです。 私が汗水垂らして稼いできたお金は、ここの家賃と光熱費を引いて残った分は全部あの人に持っていかれています。 それでも、あの人は私を産んでくれたたった一人の家族なんですよ』

『家族、ねぇ。 まぁ、他所様の家庭事情に口出しするつもりは無ぇがどうしても助けが必要なら言え。 助けを乞え。 そうすれば誰かかんかがその声を聞いて助けてくれんだろ』

『ぷっ! なんですかソレ! あはっ!あはははは! そこはおじさんが助けてくれるって言うとこじゃない?』

『馬鹿言え。 こうして飯を用意してやってんだろうが』


 いつの日かの穏やかな日常。 その一コマが頭を過ぎた。


「…けて」

「あ?」

「誰か…助けて。 もう、この人と一緒にいたくない! なんで、あんたなんかに私のお金を渡さないといけないの!? 親だって言うなら子供の金に集るなよ!」

「この…親に向かってなんて口の効き方!」 


 母親の振り上げられた手がしなりを上げて舞奈香に向かって振り下ろされた。


 パシッ。


「そこまでだ」


 舞奈香の頬に平手が届く前に手を掴む人がいた。 痩躯でスーツを来た男性だ。


「な!」

「誰?」


 舞奈香と母親は、ポカンと間に入って来た闖入者を見つめた。


「あ、オッサンじゃん!」

「ナイスタイミングです。 綾小路さん。 狙ってたんですか?」

「ちげぇよ。 あと、オッサン呼びは勘弁してくれ」

「いい加減離しなさいよ汚らわしい」

「おっと、これは失礼した」


 綾小路は、母親の手をパッと離すと舞奈香の前に立った。


「いきなり現れて何なの? そこを退きなさい。 これは、家庭の問題よ。他人に口出しされる謂れはないわ」

「ソレもそうなんだがな。 だが、今回はそうもいかねぇんだわ。 なぁ、あんた。 葦名 薫(あしな  かおり)さん。 あんたには保護責任者遺棄罪と暴行罪の容疑で出頭要請がでている。 だが、今あんたは、娘である舞奈香さんに暴行を加えようとしていた。 よって、現行犯で取り押さえさせてもらう」

「警察でも無いお前に? なにが出来るって言うのよ」


 勝ち気に薫は、綾小路を煽る。


「確かに、俺は警官じゃ無い。だけどな、今や冒険者は、治安維持部隊としての役割を果たしている。 その中でも一部の冒険者には警官と同じく逮捕権を与えられている」

「は!?」

「まあ、言うてもだ。 現行犯つってんだろクソババァ」

「く、クソババァ?」


 綾小路は、手錠を取り出すと薫に近づいていく。


「近寄らないで!」


 何処で入手したのか薫は、隠し持っていた拳銃を引き抜いた。

 それでも、綾小路は足を停めない。


「近寄らないでって言ってるでしょ!」

「母さん! 駄目!」


 薫は、手を震わせ目を瞑り引き金を引く。


 パァン! と乾いた音が病院内に響き渡る。 音を聞いた医師や看護師、出歩ける入院患者やお見舞いに来ていた人達が集まって来た。

 薫が撃ち出した弾丸は、綾小路の横を通り過ぎ、舞奈香の顔の前で蒼く燃える焔に受け止められ宙空で回転を続けていた。 やがて、燃え尽きていった。 


「え?」

「は?」


 ボゥ!


「キャッ」


 薫の持つ拳銃にも蒼い焔が上がり、拳銃を包みこんだ。 直ぐに放ると弾丸と同じく直ぐに燃え尽きて消えた。


「何よ何が起こっているのよ!?」

「ふん。 そんな事より良いのか?」


 綾小路が左手で自分の右を指し示すと、薫は、一瞬何を言っているのか分からなかったが、直ぐに理解して自分の右腕を見ると、いつの間にか服の腕の部分が燃え落ちていて素肌が露出していた。 


 逆さ五芒星。 しゃれこうべ。 天使。 そして、それらを貫く大樹。


「《三界貫く大樹ユグドラシル》の構成員だな」

「ソレが何よ。 ただの宗教よ」

「その宗教にのめり込み、娘の稼いできた金を巻き上げる。 窃盗罪も追加だね」

「違う!」

「その人、舞奈香に冒険者カードを出せってものすごい剣幕で詰めていましたー」

「私も、ソレを見ました!」

「…出そうだが?」

「惑わされないで! ガキ共の言う事でしょう!? 嘘に決まってるわ!」

「ふむ…ちなみに何だがな。 ここの病院の病室って、個室だろうが大部屋だろうがすべての部屋にカメラが入ってんだ。 なぜだかわかるか?」

「は? カメラ?」

「え? 私のプライバシーは? というか着替えの様子も見られてたの…?」

「「うわぁ…」」

「ああ~、勘違いすんなよ?これは、患者の為でもある。容態が急変した時に瞬時に看護師に連絡が行くようになっている。 監視しているのは機械だから、常に誰か人が見てるわけじゃない。 まあ、警察とかが、開示請求したら別だがな。 さて、と。 いい加減諦めなって。 お前さんはもう、詰んでんだ。 大人しくお縄に掛かりな」

「い、嫌よ! どうして私が! 退け! 退きなさい!」


 薫は、ギャラリーを押し退けて走って病室から出て行った。


「病院内で走るんじゃ無いよ、まったく。 そうした常識も欠落してんのか? 何にせよ無駄な逃亡だ。 悪いね舞奈香さん。 君のお母さんは…」

「良いんです。 もう、諦めてます。どっちにしろ死罪でしょう?」

「…掛け合ってはみるけど、そうなるだろうね」

「ニュースでも見ました。 三界貫く大樹ユグドラシル》という宗教団体が今回の鶴間事変の首謀者だって。 その構成員は、見つけ次第捕縛、抵抗する場合は武力行使も許可されてる。 ちょっと前では考えられないことですけどね」


 ははは、と乾いた笑みを浮かべる舞奈香は、なんとも痛ましい。無理をしているのは目にして明らかだ。

 後ろから茜が抱きつき横から美空が舞奈香を体で包み込む。


「二人共…」

「そんな、無理して笑わなくて良いんだよ?」

「そうですよ。 辛い時は辛いって言えば良いんです。 泣きたい時は泣いて良いんです。 その時は、私の胸も貸しましょう。 それに…」

「うん。ようやく言ってくれたね。『助けて』って」

「ええ?」

「舞奈香が家の事で大変だってのは薄々気づいてた。 でも他所様の家の事情だしこっちからなにか言うわけにもいかない。 だから、助けてって言われるの待ってたんだよ」

「茜」

「それと、舞奈香? 華の女子高生がお隣さんとはいえ男の人の家に入ってご飯をご馳走になるのはいかがなものかと」

「み、美空ちゃん?」

「私、ちょっと怒ってるんですよ? 少しは、危機感を持って「はいはい!そこまでにしようか、娘っ子達」」


 綾小路が、手を叩いて三人の会話に割って入った。 その顔は、困り果てていた。


「とりあえず、今後の話をしよう」


 そう、切り出した。



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