キ病
ある日突然世界中で原因不明の病気が流行した。
その症状は簡単に説明すると"呼吸困難"普通の人が普通に呼吸するのが当たり前でそれをいちいち考えながらする人は皆無、その呼吸の仕方を忘れたかのように呼吸で苦労する、まるで高山病に罹るかのように
もちろん高山に居る人間が罹るわけではなく、どの高度に居る人間も一定以上の割合で罹る
死病ではないため日常の生活に苦労することはあってもなんとか生活はできる、そんな状態であった。
診察を受けた病人の肺機能に異常は見当たらなかった、心肺機能は低下しているのだが、原因は見つからない、だからこその奇病である
一介の高校生であった祖城春希も奇病に罹った1人であった。
「病気のせいで学校も行けなくなるし、家族も冷たいし」
それが口癖のように呟く
一般中流家庭の祖城家は40代の父母、高2の春希、中3の妹の4人家族、家族仲は悪いわけではないのだが、健康な家族からすると春希の苦しさは理解できず、ただ怠けているようにしか見えない、そんな家族の思いもなんとなく分かると肩身が狭く、自宅でおとなしくしているしかなかった。
学校にも行けずバイトも出来ないそんな生活が半年ばかり続いたある日、何気なくお昼のニュースをテレビを見ていると
「本日日本各地で新たな洞穴が発見されました、現地の人々の話では昨日までは何もなかったのに今日いきなり現れたとのことです、詳しい調査は後日行われるそうです、こちらがその映像です」
見た目は地下鉄の入り口のようだった、階段こそなかったものの下りの坂道になっており、下の方は微かな光まで見えていた、降り切った先は緑の膜がかかっており、その先に進むことはできないようだった
「これってダンジョンじゃん」
見た感じゲームに出て来るようなダンジョンそのものだった、ただ調査も終わっておらず、現時点ではただの洞穴
「現在発見された洞穴は旭川、川越、観音寺、久留米の4箇所です、全て同じ外観ですがこちらは川越の物です」
「川越なら頑張れば行ける距離だな、暇だし見に行ってみるか」
時間だけは有り余っている春希が暇潰しにと考えてはいたのだが、そう考える暇人は春希だけではなかった。
現地に行くと100人を越える人で溢れかえっていた、野次馬だけでなくテレビカメラや動画配信者も来ていた。春樹と同じように
「日本にダンジョンが出来ました、歴史的な瞬間に皆さんと共有できるなんて幸せです」
なんて言ってる配信者なんかも居てゴタゴタしていたが、誰もが降りた奥には進めず入り口で屯しているだけなので、密度はかなり高かった。
「まぁそうだよな、みんな考えることは一緒だよな」
遠くからしか見ることは出来なかったが30分ほど暫くぼーっと人の流れなんかを見ていてふと気付いたことがある
「なんかここに来てから息苦しくない」
普段はすぐに息切れし10分歩いては休憩しないといけないレベル、数分に一度は深呼吸しないと苦しくなるのだが、ここに居る間中そんなことしなくても、むしろ病気になる前に比べても身体が軽くなった気がする、なんとなしにその場で飛び跳ねてみた
「もしかして治った?ずっと運動も出来なかったが肩慣らしにひさしぶりに振ってみるか」
元々野球部だった春希は毎日ようにバットを振っていたが病気の為何も出来なくなってしまった、もちろん守備練習やランニングなんかも練習ではしていたが、春希は打撃以外には全く意義を見出していなかった、練習終わりによく行っていたバッティングセンターを目的地に設定する。
「もう学校も終わってる時間だし、誰かしらいるだろう」
ゲームセンターも併設しているバッティングセンターには高校の連中がよく立ち寄っていた為久々に知り合いに会えると思い少し浮かれていたがバッティングセンターに近付くと段々とまた息苦しさが戻ってくる
「治ったんじゃないのかよ、ハァハァ」
こんな状態ではとてもではないが、遊びに行ける状態ではない、来た時と同じように小休憩を挟みつつ帰宅した。
家に帰った後はまた自宅療養の日々が戻るだけ、あの一瞬だけでも元気になった時のことは錯覚だったのかと思ったが、病院でも原因がわからない病気がダンジョンに居た時だけ良くなっていた、その希望的観測は無視できない
「ダンジョンに行って検証してみるか」
再びダンジョンに行くことを決意するのだが、やることを決める。
1:時間
具体的な時間を測り症状が緩和するかどうかを調べる、短時間が良いのか長時間が良いのか。
2:距離
これについては近くに居ることが前提ではあったが、どれぐらいの距離を離れると効果が薄くなる若しくはなくなるのか調べる。
3:内部調査
ダンジョンの中にはまだ誰も入ったとニュースではやってないが、あれからダンジョンのニュースは流れていないのでもうブームは過ぎ去ったと考えて良いのでより近付くことはできるはず。
以上3点だけ定めて行くことにした。