卵を割る男
「たまごをわざと割っていた男?」
道重小夜は首を傾げた。
「うん。そうなの」
山本恵理子は頷いた。彼女は道重と同門の学生だ。
二人は大学の授業を終え、ファミレスで駄弁っていた。
「意味がわからないんだけど」
道重は怪訝な顔をした。
「私も理解できない。スーパーで買ったはずの卵を、突然、道路で割り始めたの」
「スーパーに出た直後?」
「うん。会計待ちに並んでいた人だったし、レジで購入していたのは見た」
「ふうん」
道重はフライドポテトを口に入れた。
「不思議じゃない?」
「たしかに」
「どうしてだと思う?」
「指輪はつけていた?」
道重は質問に対して質問を返した。
「してた……と思う。多分、既婚者」
「そう」
「既婚者だと、卵を割る理由があるの?」
「うーん。あくまで想像だけど、思いついたことがある」
「どんな?」
道重の発言に、山本は目を丸くした。
「その男はオムライスが好きで、今日はどうしてもオムライスが食べたかった」
「うん」
「けれど、妻は『今日はロコモコ丼にするから、卵を買ってきて』と宣言する。彼の望みは叶いそうにない」
「それなら妻に素直に『オムライス食べたい』って言えばよくない?」
山本は腑に落ちない顔をした。
「いや、夫婦が正常な関係ならそれでもいいけど、異常なくらい恐妻家だったら、怖くて言えないんじゃないかな」
「なるほど」
「だから、彼はあらかじめ卵を割っておいて、『しょうがないから、オムライスにしようか』という流れに誘導しようと企んだじゃないかな」
***
**
*
荒川裕一夫妻は家事を分担していた。
今日は彼の料理担当の日だった。調理中、些細なことで妻と口論となり、リビングの椅子で殴り殺してしまった。
我に返った時、このままでは捕まってしまうと思い、彼は一計を案じることにした。
(妻は、夫の買い出し中に強盗が入って殺されたことにしよう)
妻と争っていた際に、卵の黄身が彼女の服にべっとりとついてしまった。このままだと調理中に争ったことが露呈してしまう。
そこで、彼はまたしても考えが浮かんだ。
(買い出しの帰り道で卵を誤って割ってしまい、妻の死体を発見し、動揺し、そのまま買い物袋の中の卵が彼女にかかったことにすればいい)
裕一は最寄りのスーパーマーケットに行き、卵を購入した。店をでた直後、彼は卵を割った。
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