序
目が覚めた。
あたりを見渡すが、何も見えない。というか、明かりがない。
俺は手探りであたりを探索した。
記憶がない、俺はなぜここにいて、だれなのか、何を目的にここに存在しているのかそんな小難しいことを考えていたからか、ただどんくさいだけなのか。
「痛っ!」
岩。つま先を打った、尖っていたのか少し流血も感じる、どうやら俺は痛みに弱いらしい、ちょっとしたかすり傷だが、つま先を抑え地面に寝転んだ。今更だが、はだしで洞窟?のような場所にいるのは違和感しかない。なんとも情けない。
「ん?」
見えた、希望の光、というか、岩の隙間から差し込むただの日光だろう、それでも今の俺にとっては希望の光だ。
俺はつま先の痛みを忘れ光のところへ無心で走っていった。
だんだん緑が見えてくる。
「森…か?ほんとにどこなんだここは」
少しあたりを見渡してみる。
「お!道だ!」
道をたどればきっと町があるはずだ、左右に広がる道、とりあえず俺は、右に続く道をたどっていった。特に理由などない。
「とりあえず町に行って飯を探さなきゃだなw、腹が減ったんdぐがぁ!」
こんな短期間に2回もつま先をそれも今回は小指を打ったせいで今にも泣きだしそうだ。
「いってぇ、ついてねぇなほんと。…ん?」
宝石。
それが第一印象だった、だが少し違う虹色にも白にも見える手のひらサイズのイシ。どうやらこいつが犯人らしい。
「くっそぉ、綺麗なくせしてきったねぇ真似しあがる」
人はさみしくなると独り言が増えるらしい。
「今回は美しさに免じて許してやる!」
そう言って俺は無意識にそのイシをぽっけに入れた。靴こそは履いていないがそれなりにいい服は着ている。清潔感もありかなり丈夫な不思議な服。
「予定変更!町に着いたら靴を入手する!」
そう言って俺はどれだけ続くかも分からない道を歩き続けた。
-------------------
「すごく元気のいい兄さんだねぇ」
どれだけ歩いただろうか。笑顔の爺さんが畑作業をしながらいきなり話しかけてきた。街も目の前に見えるほどだが、歩きすぎか、意識がはっきりしない。
「あ、ありがとうございます?」
こういう時はなんと返せばいいのか。
「よく裸足でここまで歩いてきたねぇ、隣町まで3時間はかかるじゃろ?」
ここで左に行けばすぐ街についた説が出てきているが、あまり考えないようにした。
「そのことなんですけど、靴をいただいてもよろしいですかね?」
できるだけ丁寧に交渉してみる。
「ほっほっほ、かまわんよ、儂の古いのがちょうどそこの小屋に残っとるわい、ついてきな」
「ありがとうございます!」
とりあえずはミッション1クリアになりそうだ。
「兄ちゃん見ない顔だね、どっから来たんだい?」
「それが私もわからないんです、ついさっき意識を取り戻したというか、気づいたら洞窟にいたんですよ」
「洞窟?」
気のせいか、爺さんが少し眉間にしわを寄せたと思ったらそのよぼよぼの肉体に似合わないほど、いきなり大笑いしだした。
「あっはっははっはっは、そりゃぁわかりやすい冗談を、あんなところから武器の一つも持たずにあんたみたいなのが一人で帰ってこれるわけないだろう」
「と、いいますと?」
「なぁにとぼけんなさんなよ、あんた、言葉遣いは丁寧だし、それなりにいいとこの出じゃろ?それなら洞窟がどんなに危険なもんか分かっちょるじゃろ?」
まったく意味が分からない、そんなにおかしいことなのか?そうこうしているうちに、小屋とやらについた。
「ほれ、これをくれてやる」
「ありがとうございm(((ぐぅ~~~)))」
腹が鳴ってしまった。そりゃ何時間も飲まず食わずだったんだ、仕方ない。
「ほっほっほ、兄ちゃん腹減ってんのかぁ、よいよい、聞きたいこともあるしお昼にしようか」
「いえいえ、靴までもらってそんな…」
「ほれ、ここに座れ」
まかば強引に椅子に座らせられる。
「ほれ、大したもんはないが、シチューとパンと、あとは紅茶でも飲んどきなはれ」
「あぁ、ありがとうございます!」
そう言って俺は犬のように目の前の飯を食べ始めた。
-------------------
「それでじゃ」
ちょうど腹が膨れてきたころだろうか、爺さんがいきなり真剣な顔になって話し始めた。
「兄ちゃん、さっき気づいたら洞窟にいたと言ったな?」
「え、あ、はい」
さっきまで優しかった人がいきなり真剣になると、なんとも怖くて緊張する。
「そうか…」
何やら深く考えているようだ。
「話しは変わるが、2週間前、世界の侵略をたくらむ悪の組織、ピオル率いるへべリオン軍の動きが自軍だけでは抑えきれなくなった世界政府の命により、世界中の凄腕術死が集められ転生召喚の儀式を行った、これは術師10人の命と引き換えに、ランダムな異世界から最も重要な人物を強制的にこちらの世界に転生させるという、いわばめちゃくちゃな儀式だ。まぁそんなことをする必要があるほど追い込まれているのだろう」
「はい…」
いまいち話がつかめない、なぜいきなりそんなことを?
「しかし儀式は終了し、術師は全身死亡が確認されたが、転生者は現れなかった。世界政府は酷く焦り、転生者らしき人を見つければ直ちに政府に連れてくるよう全世界に命じた」
「ん?」
まさか俺ではあるまい、俺なんか小指を打って悶えてるような貧弱野郎だし。ありえない。
「この辺り一帯の洞窟はすべてへべリオン軍のアジトになっている、それも政府軍が1000人投入されても一人帰ってこれれば奇跡というほどの過酷っぷりだ。」
どうやら反政府組織がうようよいるところから俺は奇跡の生還を遂げたらしい。
「そこでじゃ、もし兄ちゃんの話が本当なら、記憶もなく、気づいたら洞窟にいて、奇跡的に帰ってこれたのも不思議なことではない」
「そりゃまぁ、記憶がないですから反論こそできないですけど、私は魔法も使えなければ、武術も備わってないですし…」
爺さんが少し不思議そうな顔をする
「魔法が使えないなんて、そんなのあってたまるか、三才のガキでも斬撃暗いなら使えるというのに」
「そんなこと言われましても…」
「忘れとるだけじゃわ、ほれ、そこのリンゴに斬撃を飛ばしてみろ、頭でイメージを浮かべて手を伸ばせば、少しは出せるじゃろ、威力次第で貴様が転生者か、ただの記憶喪失者かわかるじゃろうしな」
「わかりましたけど、あまり期待しないでくださいよ」
俺は頭の中で指の先から斬撃を流すイメージをした。なんだか力がみなぎってきた。いける!そう確信し、力を解き放してみた。
「…!?」
「…!?」
俺も爺さんもかたずをのんだ。そりゃ驚くさ、何も起きていないのだから。
「おかしいの…」
「三才以下と…」
少し落胆した。爺さんがリンゴを確認しに一歩踏み出したその時、ヒョロイ老いぼれが足を踏み出したありすらも感じない衝撃で、目の前のリンゴどころかタンスや水筒、鉄でできた鍋すらも吹き飛んだ。爺さんは腰を抜かし、転んでしまった。
「な…な、なんなんじゃ。ありえんぞ!貴様儂をからかっておるな!本当は世界政府公認の特級魔術師じゃろ!」
「だから!ほんとに何も知らないって!」
少し声を荒げてしまった。
「馬鹿を言え!そんな少し手を伸ばしただけで視界の前のものが吹き飛ぶわけなかろう!それこそ…!?」
「そ、それこそ?」
「急いで世界政府へ向かうぞ」
「え」
とりあえず俺は強いらしい、とにもかくにも俺は爺さんの馬車に乗せられて「世界政府」とやらに向かうことになった。いまだに何もわかってない。