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番外編 地球外生命体の拠点にお邪魔する

本編に入らなかった設定補足的な後日談

 某日、某所ビルに私は来ていた。なぜかって? それは先日のプロポーズを受けたことで何やら手続きがあるらしく、指定されたこの場所に来たという訳なのだ。


 宇宙を股にかける(らしい)組織の支部にも関わらず、どっからどう見ても何回見ても、なんの変哲もないごくごく普通のビルだったことにちょっとがっかりしている私。なんかこうもっと近未来な感じとか、許可されたものだけしか見えないとか、映画ばりのエントランスとかえらいグラフィカルなセキュリティとかあってもいいんじゃなかろうか。


 それはそうと……、深く考えずにここに来てしまったけど手続きって何だろう? も、もしや秘密漏らしたら爆発するマイクロチップセットとか埋め込まれるなんてことはないよね……?!


「おーい、ミオさんですかー? ミオさんですよねー? 大佐ちょっと手が離せないみたいなので僕が代わりにご案内しますー」


 ム○クの叫びの如く崩れきった顔を慌てて立て直し、陽気な声のした方向を振り向くと、そこには人好きのする顔にニコニコと笑みを浮かべた青年が立っていた。


「あ、どうも……。あれ?」


 挨拶しようと腰を浮かせたところで、その青年に見覚えがあることに気づく。確か、あの時の合コンの男性側の幹事だったような……。


「はっ!! もしや覚えててくれてます? そうですー! 有村でーす」


 ちぎれんばかりにブンブン握手されながら挨拶をされ、それに返事を返す間も与えられずに、さぁさぁどーぞどーぞとビル内に促される。そうだった。彼はあの時もこんなテンションマックスだったよね……。マッチョな体型と相まって暑苦しさ倍増とか失礼なことを考えつつ、セキュリティゲートを抜けていくうちにふと思った。



 ひとーつ、ここはレイのいうところの地球近辺、銀河系の監視拠点であるようだ。


 ふたーつ、これまでの話しぶりから彼はレイの部下のようだ。

 

 すなわち……、彼も地球外生命体である、と。




「あ、あの。有村さんも地球の方じゃないんですよね……?」


 さすがの私も初対面の方にダイレクトにあなた地球外生命体ですか、とは聞けない。が! こんな機会はそうそうないので聞かずに済ませるという選択肢はあるわけがない。


「あ、そっかー。ミオさんもうご存知でしたね!」


 そーだそーだと、その人好きのする顔に、はじけんばかりの満面の笑みを浮かべた。そして、レイのものとよく似た腕輪をはずすとブゥンという聞き慣れた音をたて彼の姿が揺らいでいき、そこに現れたのは……。


 な、何ということでしょう……! そこに現れたのはハン・ソ○船長の相棒チューバッ○みたいなつぶらな瞳の毛むくじゃらな動物。ちょっと色が違うくらいの中途半端じゃなく、これぞ地球外生命体ではありませんか!! ていうか、やっぱり気づかないうちに私達は未知との遭遇を果たしているのかもしれない。こ、これは聞いておかねば!


「いきなりな質問ですみません。皆さん、仕事終わりはどうされてるんですか? 普通に飲みに行ったりとか……?」


「あー、個人というか種族の特性次第ですねー。僕は赴任先では存分に楽しみたいタイプなのでガンガンいきますよー。でも友好的じゃない惑星では飲みに行くどころか夜出歩くだけで血を見ちゃうこともありますけどねっ」


 おい、そこのくまさん(?)や。花咲く森の中をルンルンと歩いているかのようなほのぼの感醸し出しながら物騒なことをさらっと言わないでくれたまえ。


「ちなみに個人的なお付き合いも硬いとかデロデロとかでなければ全然オッケーでーす。あっ、こいつらは自分の種族オンリー、ストライクゾーン激狭な種族なんですよ」


 そう言って笑いながら、ちょうどコーヒーを持ってきてくれた可愛らしい女性を指す。


「こう見えてこいつの実態はスライムなんです。なんと! スライムの愛情表現ってもうお互いに混じり合うくらいにデロデロのドロドロに絡み合っちゃうんですよ! なかなか過激ですよねー。一回どんなものか遊んでみたんですが、ベタベタするだけで全然気持ち良くないんで、もーすぐ萎えちゃいましたよ。スライムだからプルプルして気持ちいいと思ったのに大誤算でした。後、硬い種族のやつらは金属パイプにツッコんでる感じでこれまた萎えちゃいましたー」


 ふわふわの毛並みにクリクリの瞳。加えて、鼻歌でも歌っているかのように楽しげな声でニコニコと話をしている姿は某宇宙映画よりも絵本もしくは○ィズニー映画がしっくりくるような可愛さである。モフモフ好きならイチコロ間違いなしだ。だというのに、スライムな彼女からの冷ややかなケイベツの眼差しなどなんのその、清々しいほどの笑顔で18禁なゲスい内容を語っておられる姿は諸々台無しである……。


「この惑星の娘たちは柔らかいし可愛いんで僕的にはガンガンいきたいところなんですが、この惑星は機構未加盟国なので交流も交尾も結婚も禁じられているんですよねー。つまんないですよねー。ほら、この惑星って統一政府的なものはなくて細かく統治が分かれてるでしょ? なんで加盟勧誘が難航してるみたいですー。あっ、あの合コンは特例で認められてまして機構条約違反にはならないんで安心下さい。僕的には今回は特別にこの惑星の人と交流できてラッキーでした。いやー、でも大変だったんですよ? ミオさんの交流関係洗って怪しまれないよう近づいて合コン開催するのは!」


「と、特例?」


 あの場が意図的に設けられたのだということは知っていたが、特例ってどういうこと?! そっ、それよりも交流関係洗ってって怖すぎぃぃぃ!!


「あっそこはまだご存知でないんですね。大佐のファン・デン・ベルグ家はデ・ヴリース家と並んでこの治安維持機構の礎を築いた創立家なんでです。あのニ家の人達は例外なくあの特徴的な目と髪の色なんですぐわかりますよ。僕らは主要惑星でそれぞれ暮らしてるんですが、あのニ家だけは独自に構築されたコロニーに住んでます。コロニーっていうより要塞って言った方がイメージつきやすいかもしれませんねっ! あそこ、妨害電波で外観も知られてないですし、許可なく立ち入ろうものなら、あーいや近づいただけでも消されるってウワサです。いやー、まさに要塞の名に恥じてないですよね、怖いですよねー」


 だから、そこのくまさん(?)や。花咲く森の中をルンルンと歩いているかのようなほのぼの感醸し出しながら物騒なことををさらっと言わないでぇぇぇ!!


「ここからが本題です! 詳しいことは僕わからないんですけど、というか知ったら多分消されると思うんですけど、このニ家には男児しか産まれないんです。なんで、存続のために他種族のメスと番うんですが、どの種族と番おうと男児しか産まれないんです。男児しか生まれないが故に生殖本能に忠実だっていうのもポイントですよ。誰でもいいわけじゃないってところも相まってこの人だと思ったらそりゃもう執着するらしいですよ。これまた怖いですよねー」


 ドヤ顔で語りきった有村さんは、すごいですよねー、と膝を叩き爆笑してるが全くもって笑い事じゃないし、すごくない……。


「ああ、その辺は追々話そうと思ってたんだが……」


「わー、大佐!! 先に話しちゃって申し訳ありませんーーー!! 機密情報は漏らしていませーーーん!!」


 レイが部屋に入ってきたその瞬間、有村さんは全身の毛をブワァと逆立てくまなのに脱兎の如くピューと部屋を出ていってしまった。あれ……、スライムな彼女もどことなく緊張感が漂っている……?


 私には、髪の色と瞳の色が眩しくなってる以外はいつものレイにしか見えない。服も軍服ではなくいつものスーツ姿だし、ちょっと閣下らしくマントくらいつけてもらうくらいしてもいいんじゃないかと思っているくらいだ。ううむ、地球外生命体の皆様にしか感じ取れない威嚇電波でも出しているのだろうか……?


 そんなことを考えている間に、彼女もレイの退出を促す視線受けソソクサと部屋を去っていった。


「あいつの種族は友好的なんだが色々緩くてな。でもミオの思う、これぞ地球外生命体ってやつだっただろ? ああ、スライムも実物見たかったよな? もう一度呼んで人型解除させるか」


「いやいやいや! いいよ、わざわざ。皆さんお仕事中だよね?! また機会があればその時にでも!」


 出ていく時の彼女の心底ホッとした表情を思うとそれは忍びない上に、仕事中にわざわざ上司に呼び出されよく知らない女の前で本体を晒すだなんてとんだパワハラ事案である。

 

「そうか? じゃあここまで来てもらった本題を済ませてしまおうか。ミオ、手出して」


 言われるままに手を差し出すとそこにチェーンのようなものを巻かれる。レイがチェーンの端を合わせるとスルスルと長さを変え程よいフィット感で私の手首に収まる。


「ブレスレット……?」


 ネームタグのようなものがついたシンプルなブレスレット、に見える。でも、巻かれたチェーンには金属特有の冷たさもないし、ジャラっと感もない。まるで自分の腕の一部になったように重さも感じない不思議な感触がする。というか、留め具はないし継ぎ目もないし、これどうやって外すんだろう? クイクイと軽く引っ張ってみるがちぎれそうな気配はない。


 ま、まさかこれで常時監視されて一言でも秘密を漏らしたら抹殺されるのぉぉぉ?!


「そこまで物騒じゃないから安心しろ。単なる身分証明証みたいなものだ。俺のと対になっているから、これをつけてもらうことで俺の……パートナーとして識別されることになる。ミオが望むならいつでもコロニーに入れるぞ。見て楽しいものはないが、宇宙気分を存分に満喫できると思う」


 いつも通り私の妄想を見透し、フッと笑いながら自分の腕にはまっているブレスレットを顔の横にかかげた。


「俺達はこのブレスレットでパートナーとして繋がった証とするんだが、この惑星の流儀にもちゃんと乗っ取らねばな」


 そうして王子様のようにうやうやしく私の左手をすっと取ると、薬指に指輪をはめてくれる。


 桜の花びらがひとひら、ちょこんと乗ったキラキラ輝くダイヤの指輪。


「可愛い……」


 ―――この風景がミオの名前を表すんだと思えば、まあ興味深くはある


 地球の常識も私達が普通にもつ情緒ってやつも分からない、そうレイは言った。なのにこうして興味を持ってくれて、分かろうとしてくれてこの指輪を選んでくれたことが本当に嬉しかった。


「近いうちにご両親に結婚のお許しをもらいに行くから」


「えっ、挨拶?!」


「流儀に乗っ取るのだから当然だ。ご両親に結婚を許してもらえたら両家顔合わせ。で、続いて結婚式」


「顔合わせ?! 結婚式?!」


「当然だ。結婚式には親族、友人、同僚が参加するものなんだろう? 両親、兄弟はもちろん連れてくる。同僚はちゃんとした奴らを選出するから安心していい。友人は……、呼ばなくても勝手に来るだろう」


 知らず知らずの間に未知との遭遇を果たす両親。


 招待客の半数が地球外生命体の結婚式。


 ……。

 ……。

 ……。



 あらやだ、これってちょっと……、いや、かなり血沸き心踊るシチュエーションじゃないの? あああ、だというのにこの心踊る熱き思いを誰とも分かち合えないなんて!! お母さんくらいは許して貰えないだろうか……。ちょっと相談してみるくらいは……、ありだろうか?


 そーっと伺うように顔をあげると、まるで私の考えなどお見通しと言わんばかりにレイは優しい眼差しを浮かべ微笑んでいた。その表情にホッとしたのもつかの間、眼差しの中に浮かぶ底知れぬブラックホールのような闇色とそれに浮かぶオパールの輝きに魅せられ吸い込まれてしまいそうになる。


「早くレイのその姿に慣れないとね」


 想像(バーチャル)現実(リアル)になる、それは見なければ良かったこと、見てはいけないことを見てしまうこと。見てしまったならば、知ってしまったならば、もう戻れない……、湧き上がってくる畏怖にも似た気持ちから目をそらすようにブレスレットに目をやった。


 これは現実(リアル)の証明……、なんだよね……。


「ミオならすぐに慣れるんじゃないか?」


 ふわり、と、腕の中に抱き込まれるといつもの温かさを感じる。そうか、これも現実(リアル)の証明だ。一つずつそれを受け止めていこう。

 

レイ視点の番外編で完結予定

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