固い決意
フロウもレナードと同じようにカレンとウィルを気遣って朝食に降りて行った。
昨夜の話はとても事実とは思えなかった。石のように固くなった体をただベッドに横たえずっと天井を見つめていた。
私たちはどうなってしまうんだろう…止めどなく流れる涙が枕を濡らしていった。
朝食後は、何もせずただ部屋のソファに座っていた。
変ね、今日は暖炉の傍に居ても身震いするほど寒いわ。朝食には降りて行ったはずだけど私は何を食べたのかしら?
そこへノックの音がした。「どうぞ」私は機械的に答えていた。
入って来たのはレンだった。レンの顔は青ざめ、憔悴しきっていた。
「こっちへ来て。暖炉の傍ならきっと暖かいわ」
レンは無言でソファの私の横に座った。私は両手で彼の頬に触れ優しく言った。
「ひどい顔をしているわ。朝食はちゃんと食べた?」
そう言いながらふと、自分だってきっとこんな顔をしているのだろうなと可笑しくなった。そして昨日の話がはっきりと脳裏によみがえってきた。
お母様は20歳になってすぐレンを産んだと言っていたわ…でも今の叔母さんの話だと結婚してすぐ子供が生まれたってことになる…それじゃあレンはリンドルの息子ではないの? リンドル家に嫁ぐ前に、交際していた人の子供? それは、それは…お父様ということ……。
地面が、いや部屋全体が揺れているようだった。しっかりとイスのひじ掛けを掴んでいないと倒れてしまいそうだった。
でもその手を放してでも自分の耳をふさいでしまいたかった。こんな話は聞きたくない。それなのにレンは…私の一番聞きたくなかった言葉を…。それを言ってしまったら…私達は…。
「フロウ、フロウ。こっちを見てくれ、フロウ」
気づくとレンが私の肩をゆすっていた。
「レン……私達、どうなるの?」
私がレンに顔を向けると彼は私を強く抱きしめた。
「俺たちは変わらない、俺は変わる事なんて出来ない。フロウを諦めて、今までの事は無かったみたいにまた兄妹として生きていくなんて考えられない」
レンは私を抱きしめたまま言った。
「フロウ、どこか遠い所へ行こう。誰も俺たちの事を知らない遠い所へ。そこで二人で生きて行こう。俺は侯爵の身分も何もいらない。フロウさえ居てくれたら…」
私は深い眠りから急に覚めたような気がした。
いつも落ち着いていて冷静な彼の内側にこんな情熱が秘められているとは気づかなかった。正直な気持ちを言うと私は嬉しかった。私もレンを愛している、そのレンが私をこんなにも求めてくれている。
「レ…兄さん。それは出来ないわ。私達の愛は実ってはいけないものだったのだから」
でも、私の口から出たのは彼を突き放す言葉だった。この侯爵家は名実ともにレナードの物だ。それを手放してまで私を選ぶなんて事はさせられない。
レンは驚いて私を離した。
「フロウは、そんなに簡単に諦められるの?」
「諦め…られるわけがないわ…私が兄さんをどんなに愛しているか」
私はもう一度彼の頬に触れた。大好きな兄さん。そうね私達よく似てるわ、髪の色も、この頬の形も。
「それなら!」
私はレンの言葉を遮った。
「だから、私は旅に出るわ。それが一番いいと思うの。そして兄さんを諦められるまで戻ってこないわ」
きっと私は一生戻ってこないでしょうね…。
兄さんは私の目の中の固い決意を見たのだろう、悲しみに満ちた表情で部屋を出て行った。




