不幸の足音
第6部
年が明けると時間の経つのが急に早くなったように感じる。
あっという間に休暇が終わり、俺はまた首都にある近衛隊兵舎に帰ってきた。
もうフロウの事は吹っ切れたと言ったら嘘になる。だが胸の痛みは小さくなりつつあった。
今は仕事に精を出そう。配属先も変わるかもしれない。環境が変われば気持ちが変わっていくのに拍車がかかるかもしれない。
「ま、なるようになるさ」
そう考えていた頃、大陸へ遠征の命令がでた。王族の護衛任務だった。
カレン叔母さんがいる都市だな。少しくらいなら時間を取れるだろう、突然会いに行ったらびっくりするかな…。
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「まぁ! ウィルじゃない。突然どうしたの?」
カレン叔母さんの反応は予想した通りだった。とても驚いていたがすぐ俺を中に招き入れながら暖かく迎えてくれた。
「そう、護衛任務で大陸に来ていたのね。私をびっくりさせようと思って突然訪ねてきたんでしょう? 相変わらずなんだから」
メイドが運んできたお茶を俺に進めながら叔母さんは少し呆れていた。
「でも元気そうでよかったわ。どう、大陸は向こうより少し暖かいでしょう?」
「大分違うね。今年は向こうは大雪で大変だよ。ハリーは元気?」
「あの子は元気よ~もう元気すぎて。あの子も15なんだからもう少し大人になってくれるといいんだけど」
ハリーはカレン叔母さんの長男だ。小さい時に1度会ったことがあるきりだが、叔母さんによく似て快活でよくしゃべる。
「会いたいなあ、今度屋敷にも連れて来てよ」
「今日は早く帰ってくるはずだから会って行って頂戴。夕食は一緒にできるでしょう?」
「うん、ごちそうになるよ」
夕食は叔母さん一家とたまたま商談に来ていた外国人の夫婦と一緒で賑やかに終わった。
叔母さんはああ言っていたが、ハリーは立派になっていた。俺が15の頃よりずっと大人だと思う。
食後、叔父さんは外国人と商談に入り、俺は叔母さんと二人で別室でくつろいでいた。
「そういえば、フロウとはどうなったの? 近衛隊に入隊したら結婚するって言ってたわよね?」
俺は苦い顔をしていただろう。叔母さんはハッとして、まずいことを聞いてしまったと思ったようだった。
「それが…なんと言ったらいいか。フロウは別に好きな人がいたんだよ。それでその人と婚約したんだ」
「ああ、ウィル。それは辛かったわね。フロウにそんな人がいたなんて私も知らなかったわ。手紙のやり取りはしてるけど、何も書かれていなかったし」
叔母さんは俺の手を優しく握ってくれた。
「あなたはこんな素敵な男性なんだからいくらでも相手が見つかるわよ。フロウも結婚したら家を離れるんだし、すぐ吹っ切れるわ」
「いやぁ、それがそうでもないんだ」
「どういうこと? カーライル家で一緒に暮らすって言ってるの?」
「それが…フロウの相手がレン兄さんだから…」
叔母さんの顔から血の気が引いた。
俺も二人の事を知った時は驚いたが、叔母さんの反応はそんなものじゃなかった。
「そ、そんな、婚約だなんて…だめ! それはだめよ」
「叔母さん、どうしたの?」
「ウィル、それはまずいわ……あなたいつ向こうに帰るの?」
少し考えてから叔母さんは顔を上げて言った。
「明後日船に乗るけど」
「向こうに帰ったら休みを貰ってすぐ屋敷に来てちょうだい。私は明日の船で屋敷に行くわ。明日がだめなら明後日の便を探してみる」
カレン叔母さんのこんな深刻な顔は母さん達の葬儀の時以来だ。
「休みは取れると思うけど…どうし…」
「とにかく向こうで会いましょう。その時に訳を話すわ。二人にはあなたの支えが必要になるわ」
叔母さんは俺の話を遮ってそう言い、それ以上は何も言わないと首を振った。
どういうことだろう? カレン叔母さんは何であんなに反対するんだ。いつもの叔母さんらしくない。不安と疑念を抱いて俺は帰りの船に乗った。




