報告
馬車は1台で屋敷まで帰ることが出来た。残念ながらみんなお土産を大変喜んだ。
2、3日屋敷を空けただけだったが、レナードの仕事は山積みとなっていた。
「あーーーーこれは…参ったな」
執務室で書類の山と格闘しながらレナードが呟いた。
「そうおっしゃっている割にお顔は楽しそうですよ、旦那さま」
お茶を運んできたロブが目ざとく言った。
「そんなに顔に出てるかな?」
「何かいいことがおありでしたか?」
レナードは少し迷った。だがもうすぐみんなが知る事だ。ロブももうすぐ執事に昇格するだろう、先に話しておいてもいいかもしれない。
「まだみんなには言わないで欲しいんだが、実はフロウと結婚することになった」
ロブは驚いてティーポットを手から落としそうになった。ポットの蓋が半分外れて熱いお茶がロブの靴に掛かった。
「あっっ、申し訳ありません」
「ロブ! 大丈夫か? 火傷したんじゃないか?」
ロブの驚き様にレナードのほうもびっくりした。
「いえ、靴に掛かっただけですから平気です。そ、その…お嬢様と? でございますか?」
「そんなに驚かれるとは思わなかった。でも本当だ。まだ時期は決めてないけどそう遠くないうちに、と思っている」
少し照れ臭そうにしながらレナードは言った。
ロブの頭は目まぐるしく回転しており、混乱していた。だが表情に出さないのが執事というものだ、自分も父のように立派な執事になるつもりだ…。
「それはおめでとうございます。心よりお祝い申し上げます」
ロブは執務室を辞しながら考えていた。
確かに旦那様とお嬢様は血の繋がりがない、結婚していけないことはない。だがいつの間にそんな事に…。仲の良いご兄妹とは思っていたが全く気付かなかった。
それとみんなにはまだ言わないでほしいとおっしゃった。父には? 言ってはいけないのか? 自分一人でこの混乱を処理できるのだろうか…不安な気持ちを抑えられなかった。
屋敷の者に言ったのはロブが初めてだった。だがジョージより先にロブに話したのはまずかっただろうか。きっとあまりの幸せに俺は浮かれていたんだとレンは反省していた。
そこで今度はジョージに話すことにした。ジョージも驚いていたが流石に執事長だけのことはあって、平静さを崩さなかった。
これでいいな。レナードは仕事に取り掛かろうとしたが、ふと手を止めた。ケイトだ。舞踏会の時に手伝って貰っていたのにすっかり忘れていた。ケイトは経験者だし、結婚についていいアドバイスをくれるかもしれない。
ケイトはベンと一緒に庭園にいた。庭園の木々も紅葉して庭はすっかり秋が深まっていた。
昼食を取った後庭園を散策していたレナードはベンチに座っている二人を見つけた。
「やぁ、今日はいい天気だね」
「旦那さま」ケイトとベンは立ち上がり挨拶をした。
「レナード様、グリーンレイクは如何でしたか?」
「とてもいい所だったよ、バラの専売契約もうまくいった」
フロウとの事を報告しようと思ったが、何度話しても気恥ずかしいものだと照れを隠せなかった。
「フロウとも…うまく行ってる。プロポーズも受けてくれた」
「まぁ! それはおめでとうございます。本当によかったですわ」
ケイトは心から喜んでくれているようだ。
「おめでとうございます、旦那さま。どうにかなったようで何よりです」
ベンは落ち着いていたが笑顔で祝福してくれた。
「式はまだ先だと思うけど、色々と相談に乗ってもらえたらありがたい」
「はい、喜んでそうさせていただきますわ」
「ありがとうケイト。では仕事に戻るよ。師匠、また圃場で」
そのままスキップでもしそうな程レナードの足取りは軽かった。




