ふたりの休暇2
疲れていたせいかぐっすり眠った二人は翌日早くに目が覚めた。
朝食を取りながら、今日は絶対に部屋をふたつ取るか、ツインベッドの部屋に移動しようとレナードは考えていた。
今日は昨夜のようにすぐ眠れないかもしれない、フロウの隣で二晩も理性を保てるか自信がない。
だがレナードの希望は打ち砕かれた。
「申し訳ございませんが、今週はずっと満室でして。キャンセルが出ましたらお部屋の変更を致しますのでご了承くださいませ」
カウンターの向こうのフロント係は申し訳なさそうに言ったが、観光客でごった返すホテルを見るとキャンセルの望みは薄そうだった。
仕方ない、気を取り直して湖へ散策に出掛けた。
湖の周囲の木々は赤や黄色に染まりとても美しかった。大きなボートにも乗ってみた。フロウ達が乗った大きなボートが湖面を揺らすと、赤と黄色の絵の具が水面に散らばった。
岸近くでは紅葉を写生している学生達がいてとても賑やかだった。
「そういえば俺たちが大人になってからは肖像画を描いてもらっていなかったね」
「そうね、前に描いて貰ったのは随分前の事だものね。また同じ人に頼むのもいいわよね?」
「あの大きな眼鏡を掛けた人だね? 何て名前だったかな…とても気さくでいい人だった。帰ったら調べてみよう」
それから二人は当時の事を思い出し、懐かしい話にふけった。
秋の夕暮れは早い。日が傾きかけ1日が終わろうとしていた。
「フロウ、一旦部屋に戻ろう」
レナードはそわそわしながらフロウの手を取りホテルに向かった。
「兄さん、部屋に何か忘れ物?」
まだ夕食には早い時間だし、レンが急いでいる理由がフロウにはよく分からなかった。
部屋に戻るとレナードはフロウをベランダへ連れて行った。
ベランダの正面には湖が広がり、しかも西向きだったので沈む夕日が湖面を鮮やかに染め上げている様子が一望できた。
「わぁぁぁぁ 凄いわ! 湖が真っ赤に染まってる。なんて綺麗なの…」
フロウは手すりから身を乗り出し、素晴らしい光景に絶句した。
「兄さん、私こんな素晴らしい景色は初めて見…」
興奮した面持ちで振り返ると、レナードが片膝をついてフロウを見上げていた。そしてフロウの手を取り
「フランシス・カーライル、俺と結婚してくれないか?」
レナードはにっこりと笑ってそう告げた。
「あ…」
フロウは驚きのあまり声が出せなかった。
レナードが取っていない方の手が思わず口元に伸びて行った。涙が浮かんでくるのが分かった。だがすぐ頷いて
「はい、喜んでお受けします…」と答えた。
ほっ、と安堵のため息をついてレナードが立ち上がりフロウを抱きしめた。
「泣かないでフロウ、びっくりさせてごめん」
「兄さん、嬉しいのよ…わたし、びっくりして嬉しくて…」
こんなサプライズを用意しているなんて思いもしなかった。
兄さんがこんなに私を愛してくれるなんて夢みたい。幸せすぎて怖いくらいだわ。
フロウはレンに抱かれながら沈む夕日を目に焼き付けていた。
その後、もう一度外に出てお土産を買うことにした。
「馬車にこんなに積めるかな?」
両手いっぱいの荷物にレナードは不安になってきた。
「た、多分大丈夫よ。それにロブのお子さん達へのお土産もまだ…」
馬車をもう1台借りることになるかもしれないな…お土産に目移りするフロウの陰で、ちょっと可笑しくなってレナードはひとり笑顔になっていた。




