ふたりの休暇
その年の秋、国で最大王手の園芸会社からレナードのバラを育種販売したいと申し入れがあった。
大分前にコンテストで賞を取ったバラだった。
「随分前の事なのに、今頃どうしてかしら?」
レンに見せられた書類を確かめながらフロウが言った。
「うーん、あのバラはフロリバンダ賞を取ったんだけど、当時の流行と合っていなかったのかもしれない」
バラにも流行はある。花の形容はもちろん、木の大きさなどの流行りもある。
今は鉢で育てやすいバラが人気で、あまり大きくならないフロリバンダと花数が多いものが流行っている。
「兄さんのバラは時代を先取りしてたのね」
「フロウは嬉しい事を言ってくれる」
レナードはフロウの横に腰かけてその頬にキスをした。
「そうだ、その会社を一度訪問してみようと思うんだけど、首都から45分ほどの場所でグリーンレイクの近くなんだ。フロウも観光がてら一緒に行かないか?」
「うわぁ いいわね。兄さんもたまには休暇を取らないとね」
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グリーンレイクは三方を森に囲まれた深い湖だ。
西側だけ開けていて湖に映る夕日がとても美しいと評判だ。今は秋の紅葉シーズンで観光客が多かった。
園芸会社での商談もうまくいき、レナードとフロウはホテルに到着した。ホテルの部屋は5階建ての最上階だった。
「あの、フロウ。先に言っておくけど観光シーズンで部屋がほとんど塞がっていたんだ。で、ここしかなくて…」
レンは少し顔を赤らめながら言い訳した。同じ部屋なのかしら? とフロウは考えた。でも同じベッドで寝るわけではないし、平気よね…。
だが部屋の扉には『ハネムーンスイート』と書かれた金文字がきらめいていた。
部屋に入ると奥には大きなベッドが堂々とひとつ、置かれていた。それを見た二人は真っ赤になってしまった。
「こ、この部屋は大きいし俺はソファでも大丈夫だから」
部屋は大きいがソファは背の高いレンには窮屈そうに見えた。
「…兄さん、ベッドも大きいから…多分二人で寝ても大丈夫よ」
フロウは自分の言っている事はレンへの答えになっていないと分かっていながらも、他に何も思いつかずにそう言ってしまった。
とりあえず二人は夕食に出掛ける事にした。
今日はマスの料理を食べることに決め、地元で有名なレストランに入った。そこも観光客で混雑していたが、目の前の湖でとれた新鮮なマスはとても美味しかった。
部屋に帰ってくると忘れていたベッド問題が浮上した。
「兄さん、今日は二人ともベッドでゆっくり休みましょう? 明日また部屋に空きが出ていないか聞いてみましょうよ?」
兄さんをソファで寝かせるなんて出来ないし、一晩なら・・。
馬車で2時間以上も揺られ、園芸会社でも広大な圃場を見て回り沢山歩いた。
二人とも疲れていた。
「そうだな、明日になったら空きが出ているかもしれないな」
レナードは少し動揺していたがそうするしかなかった。
レナードは先にベッドに入った。少ししてベッドが軋み、フロウが来たのが分かった。
フロウはレンの背中に向かっておやすみを言った。レンは振り返り上半身を起こしてフロウの額にキスをした。
「おやすみ、フロウ。明日は湖の周りを散策しよう」
「ええ、楽しみだわ、晴れるといいわね。なんでも10人位乗れる大きなボートで湖を1周出来るんですって、釣り道具を貸し出ししている小屋もあるそうよ、それから……」
段々フロウの声は小さくなり、寝息に変わっていった。
フフ、可愛いなフロウ。もう寝たんだね。
レナードもフロウが寝入ったのを見ているうちにいつの間にか眠ってしまった。




