ウィルとの対話
翌日の昼過ぎ、レナードはウィルを庭園に誘い出した。
今日は天気も良く外は暖かい。鳥のさえずりが聞こえ、これから話す内容とはかけ離れた陽気だった。
「で、兄さん、なんの話?」
ウィルは気分が良かった。自分のベッドでぐっすり眠ったし、これからフロウにプロポーズもするつもりだった。
「俺はお前に謝らないといけない。フロウとの結婚を反対しないと言ったけど、無理なんだ」
「えっ、どういう事? やっぱり反対するっていうの? どうして?」
ウィルの顔色が変わった。
「それは…俺もフロウを…愛してるから」
兄さんはこんな冗談を言ったりしない。
顔は真剣でテーブルの上で握られた拳は固く握りしめられている。
ウィルはしばらく言葉が出てこなかった。やがて呆れたように少し笑いながら言った。
「そう…か。それじゃあ反対するだろうね。もしかして兄さんも、って思ったことはあったけど。でも! どうしてあの時言ってくれなかったんだ。俺が兄さんに同意を求めた時に」
「あの時は…二人が好き合っているんだと思っていたんだ。だから俺は諦めようと思った」
ウィルは背中に冷たいものが流れるのを感じた。それは地面に流れ落ちて足元を凍らせ、やがて足を登り心臓を凍り付かせていった。
「それは……それはフロウの気持ちが俺に無いって事なんだね? でも俺も兄さんも同じ立場じゃないか。俺はフロウに振り向いて貰う為なら何だってする。フロウを思う気持ちは絶対兄さんに負けない」
まさか……最悪の予想が頭をよぎった。だがその予想に首を振り、フロウを振り向かせる、こう言えばそれが現実になるような気がした。そうだ、フロウの気持ちが自分に無いなら、自分に向くように努力すればいい。それだけじゃないか…。
レナードにはウィルの気持ちが痛いほど分かった。だがベンと話したことを思い出しながら覚悟を決めてこう言った。
「ウィル、俺とフロウの仲を認めてほしいんだ。俺たちは愛し合ってる」
ウィルは椅子から立ち上がり、怒りの赴くままレンの胸倉を掴んだ。椅子やティーポットが倒れ、カップがテーブルから落ち大きな音を立てて割れた。音に驚いた鳥が近くの木から飛び立つ音が響いた。
レンは胸倉を掴まれたまま目をつぶって黙っていた。
「はぁ~~」
ウィルは手を離し、テーブルに両手をついてうなだれた。
「…いつから?」
「お互いの気持ちを知ったのはほんの、つい最近なんだ」
「……俺は‥分からないよ。認められるかなんて」
ウィルはそう言ってフラフラと屋敷に戻っていった。そしてジョージに急用が出来たと告げ、そのまま近衛隊の兵舎へ戻って行ってしまった。
屋敷の者は皆、明るくて楽しいウィルが大好きだった。
頼りになる立派な当主様と場を明るくしてくれる陽気なその弟。完璧な兄弟だった。
だからせっかく帰ってきたウィルが突然屋敷を去って残念がる者が多かった。
だがケイトだけは事の次第を察知していた。ウイリアム様はしばらくお戻りにならないかもしれないわ…。




