ケミンクロスへ
レンは立ち上がって扉を開けに行った。
「ジョージ、どうしたの?」
「お話し中すみませんが、領地の南にあるケミンクロス町からの急報が入りまして」
「うん?」
「昨夜の地震で津波が発生し、町が被害を受けた模様でございます」
「何? 被害の規模は?」
「まだはっきりしたことは分からない様でして、港では船が流されたり港近くの民家や工場が倒壊したと報告を受けております」
「ううん、まずいな。…急いで現地に向かおう。ロブを借りていいかな? あと秘書官も呼んでくれ」
「畏まりました。急いで支度を致します」ジョージは急ぎ去って行った。
振り返るとフロウが驚きと心配の表情でこちらを見ていた。レンが戻ってくると立ち上がって言った。
「レン兄さん、港へ行くの? 今から?」
「ああ、行かなければいけない。いつ戻れるか分からないけど、話の続きはまたその時にしよう」
「でも危険なんじゃ? 昨日の雨で地盤も緩んでるかもしれないわ。崖崩れや…」
フロウが心配していることは何かすぐ分かった。
「大丈夫、用心していくから心配しないで。それと俺は本当に怒ってなんかいないよ。だからもう泣かないで」
フロウの額にそっとキスをした。本当はこの胸にきつく抱きしめて、あの夜の様に熱くキスしたかった。
だが心配するフロウを残して俺はロブと何人かを連れて港町へ旅立った。
現地に到着すると仕事が山のように待っていた。
ケミン港と呼ばれる大きな港があるケミンクロス町は貿易で栄えており大変賑やかな町だ。
カーライル家の領地の中でも大きな収益を誇る町。それが港はほぼ機能しておらず町は混乱を極めていた。
だが町の中までは津波は押し寄せてこず、港近くの民家が数件波に飲み込まれただけで済んだ。このうちの数件は空き家で、人が住んでいた家も結婚式で皆家を空けていた為命は助かった。
町長の家に滞在し様々な問題を解決し、復興に向けてやっと目処が付いた時にはもう3か月が経っていた。
「ロブも長い間本当にご苦労様でした。もう大丈夫でしょう。やっと家に帰れますね」
ロブもずっとケミンクロスに残って仕事を補佐してくれた。早く家族に会いたいだろう。
「旦那様もお疲れ様でございました、お嬢様が首を長くして待っておられるでしょう。それにウィリアム様の近衛隊入隊が正式にお決まりだそうで」
書類を片付けていたレナードの手がぴくッと反応した。だがロブは気づかなかった。
「ああ、ウィルは凄いよ。近衛隊でもすぐに出世するだろうな」
動揺が顔に出ていないといいが・・・レナードは無意識のうちにロブから顔をそむけていた。
フロウはどうしているだろう? ウィルが帰ってくる前に話をしておきたかったが、間に合うだろうか…




