ある夏の午後2
それから暫くカタログを一緒に見たりマリが運んできたお菓子を味わったりした。
シェフの新作デザートは程よい甘さでレンの口にも合った。フロウのドレスを何着か選んだところでレンはハッとして時計を取り出した。
「ああまだ30分前か。今日はカレン叔母さんの紹介で会うことになってる商人が来る日なんだ」
「30分前ならまだ平気ね。あら、その懐中時計は無事だったのね。壊れていなくて良か…」
フロウの言葉は途中で止まった。言ってはまずいことに気づいたのだ。しかしもう遅かった。
「時計? フ、ロウ?」
レナードは混乱した。そしてフロウは明らかに狼狽していて椅子から突然立ち上がった。椅子は後ろに倒れクッションが散らばった。
「あ……」
レナードも立ち上がった。ショックを隠し切れなかった。
「フロウ…まさか俺だと知っていたのか?」
「兄さん、違うの、これは…私…」
フロウは思わず東屋から駆け出してしまった。涙が溢れてきた。
どうしよう、兄さんに知られてしまった。他人の振りをして兄さんを騙したなんて…。
きっと兄さんは怒っているわ。どうしよう、なんて謝ればいいの? どうしてそんなことをしたんだって聞かれたら何て言えばいいの?
兄さんを好きだなんて言ったらどんな顔をされるか…兄さんにはアメリア様がいるのに。この想いが実らなくてもいい、でも嫌われるのだけはイヤ。どうしたらいいの。
東屋に残されたレンは呆然と立ち尽くしていた。
どういう事だ? フロウは俺だと知っていたのか? いつ知った? まさか初めから?
疑問が次々と湧いてきた。だが商談の時間が迫っていた。焦る気持ちを押さえ付けて執務室に戻り書類を用意した。
ほどなくして来客を告げられ、商用の秘書官と共に応接室へ向かった。




