思い悩む二人
お二人揃って今日は遅めの朝食なのね、マリはフロウに焼き立てのトーストを出しながら内心思った。それになんとなくよそよそしいような、おかしな雰囲気だわ。喧嘩でもなさったのかしら…。
翌日の朝、二人は互いの顔を見ることができなかった。
そんな態度に、お互い相手が自分を訝しく思っているだろうと思い、ほとんど言葉も交わさず素早く朝食を済ませ食堂を出た。
レナードは執務室に直行し仕事を始めた。だがその手は書類を持って止まったままだった。
フロウは…どうして俺とのキスを拒まなかったんだろう。初めは驚いていた、でも驚いていただけだった。
俺に好意を持ってくれたのか? そうだ、そうじゃないと何度もキスを受け入れたりしない。でも俺か? あれは俺であって俺じゃない。
また会いたいと思っているだろうか? 俺がそう思っているように。
しかしレンは力なく笑った。もう無理だ連絡しようがない、名前すら聞かなかった。これで俺からフロウに連絡が付いたらいつか正体がバレてしまう。
あの2晩の思い出を大切にしよう。諦めると決めたじゃないか。9月には近衛隊の新任式がある、その時ウィルが任命されれば…その先はもう考えたくなかった。
手にしたままの書類に目を落とし、ひとつ大きく息を吐いて仕事に取りかかった。
フロウはケイトと一緒に教会のチャリティーイベントの準備をしていた。
「この時期は雨が多いですから大変ですわね」
「テントがあっても地面がね。晴れてくれることを祈るわ」
ケイトの問いかけに返事はしていたがほとんど上の空だった。
もう会えないのかしら。ああして二人で会うことは叶わないのかしら。一度きりと決めたのに会えばまたもう一度と願ってしまう。
だけど兄さんはなぜキスしてきたのかしら? 私が泣いていたから? 可愛そうになったの?
まだ唇に感触が残っている。私を抱きしめた強い腕の温もりも。あの夜の事を思い出すと心臓が破裂しそう。
もう、どうにかなってしまいそうだわ。




