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薔薇の名前   作者: 山口三


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アフターパーティー2


 パーティーは劇中の主人公が披露する歌で最高潮に達した。

 最愛の妻を失った主人公が復讐に身をやつし徐々に狂気に染まっていく中で、失った妻の思い出を語る美しい歌だ。


 フロウとレンは中二階でステージを見下ろしながら歌を聞いていた。


 フロウはどんな顔でこの歌を聴いているのだろう? レンが視線をフロウに移すとフロウの視線はまっすぐステージに注がれていた。そしてその美しい瞳からは涙が溢れていた。


 図書室で眠るフロウを見た時のような理性はもう邪魔をしなかった。


 流れてきたフロウの涙をそっと指でぬぐい、顔を上げて自分を見たフロウにキスをした。フロウは少し驚いた表情をしたがそのままじっとレンを見つめ返した。


 二人はもう一度キスをした。歌が終わり会場が拍手喝采に包まれてもまだ続くキスをした…。



 その後は手を繋いでパティオを歩いた。この演劇やオペラについて楽しく話をした。噴水の横を通りかかった時に向こうからやってきた若い男性が時間を聞いてきた。


 レンが懐から懐中時計を取り出そうとすると手が滑って時計が噴水の中に落ちてしまった。


「あっ」


 相手の反応が素早く、噴水に手を入れて時計を取り出してくれた。


「すみません、手が濡れてしまいましたね」


 時計を受け取りながらレンが言った。


「いやぁ 僕が時間を聞いたせいですから。大丈夫でしょうか? 壊れていないですか?」


 男はポケットからハンカチを取り出し、手を拭きながら言った。


「大丈夫だと思います。時計屋に持っていけばクリーニングしてくれるでしょう」


 とりあえず時刻を教えると相手は礼をして去って行った。



 フロウが小さなパースからハンカチを取り出した。


「これに包んでお持ちになるといいですわ」


「ありがとう、今日に限ってチェーンを付けてこなかったとはついてない」


「完全に濡れてしまったわ…壊れていないといいですね」


 時計の蓋に刻まれた模様でレナードだとバレてしまうかもしれない。手早く借りたハンカチにくるんで懐にしまった。


 この後は…まだ早い時間だから、普通ならカフェやレンストランに誘ったりするのだろう。だが仮面をつけたまま行くわけにはいくまい。次に誘う口実はもう無い。このまま別れるしかないのか。



 パティオ側から帰る人も何人かいた。自分たちももう出口近くまで来てしまった。人目なんてどうでもいい、細い体を抱き寄せてまたキスをした。


「気を付けて帰ってください」

「はい、ありがとうございます。あの…今夜はとても素敵な夜でした」


 フロウを離したくなかった。だが何も出来ない代わりに、レナードはいつまでもフロウの去った後に佇んでいた。

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