アフターパーティー
やっと約束の日がやってきた。仮面舞踏会から1か月と少し。
一度で諦めようと思っていたのにレンの誘いを断ることが出来なかった。その上、この日が待ち遠しくて仕方なかった。どうして兄さんはまた会おうと言ったんだろう? アメリア様とうまくいっていないのかしら?
それより私は今夜のパーティーで兄さんを見分けられるかしら?
髪の色はまた亜麻色で来るだろう…フロウはレンの姿を想像してみた。大丈夫だわ。歩き方で分かる…兄さんの背中を思い出せる。広くて暖かい兄さんの背中…。
フロウは思っていた通りレンを見つけることができた。
オペラ座の隣にある建物でさほど広くない会場は、先日の仮面舞踏会より空いていた。
自由な形式のパーティーで皆それぞれダンスを踊ったり、舞台関係者が挨拶に回っていたり、舞台俳優に握手を求めている人達もいた。
レンは入口に近いドリンクのカウンターの前に立っていた。目が合うと向こうもフロウに気づき近付いて来た。
「こんばんは、お互いにすぐ分かりましたね」
今夜は少し落ち着いた装いのレンが言った。
「こんばんは、入口近くに居てくださって助かりましたわ」
今日もフロウはすごく綺麗だ。ブルネットだと神秘的な感じになるな…。
会場内は舞台のイメージに合わせてミステリアスなインテリアが施されていた。そのせいでそんな風に見えたのかもしれない。
二人は飲み物を取って会場の中へ進んだ。
「またあなたに会えてとても嬉しいです」
レンはフロウの手を取り優しくキスをした。
「私も、この日がとても待ち遠しかったんです」
それは二人の本音だった。
毎日会っているにもかかわらず、今目の前にいるのはフロウとは別人のような気がした。
家で会うフロウはレンとウィルの妹と姉で、二人の天使だが、ここにいるフロウは俺だけの天使だ。
そんなことはただの幻想に過ぎないと分かっていても、その幻想にしがみつきたかった。この幻を離したくなかった。




