余韻
フロウは帰りの馬車の中でもぼんやりしていて気づいたら自分の部屋のベッドに座っていた。
着替えのためにホテルに部屋を取っていたので、そこへ戻り変装を解いてまた馬車に乗り屋敷へ戻ってきたはずなのだが、その行程を全く覚えていなかった。
レンの優しく語りかけてくれた声、何度も踊った手の温もり、舞踏会での出来事がぐるぐると頭の中を駆け巡り何往復もしていた。
まるで夢をみていたみたいだわ…。いえ本当に夢を見ていたのかもしれない。あまりにも強く望んでいたからこんな夢を見たのに違いないわ。
だが膝の上に乗っているパースを開けてみると、きちんと畳まれた『オペラ座の惨劇』のチラシが入っていた。
レナードはフロウより少し先に屋敷に着いていた。
馬車の中でカツラを取り仮面を外し上着を着替えた。
ケイトがレンの帰りを見計らって玄関で待機しており、着替えや仮面を受け取った。
「おかえりなさいませ、お着替えはこちらで処分しておきます」
「ありがとう、ケイト。フロウはまだみたいだね」
「はい、まだお帰りになっておりません。お部屋にお茶をお持ちいたしましょうか?」
「今日はもう遅いからいいよ、あなたも休んで下さい。色々ありがとうケイト」
舞踏会はうまくいったようだ。ケイトはレナードの上気した顔を見てそう結論付た。声も明るい。
本当はどうだったか本人に聞いてみたかったがまた次回にしよう。ひとまず安心したところでケイトは自室に戻っていった。
レナードは部屋に戻るとすぐベッドに横になったが、なかなか寝付けなかった。
フロウは俺だと気づかなかったな。そして本当に楽しい夜だった。
今夜のフロウは俺だけのものだった。すっかり大人びて美しいフロウとのダンス、楽しいおしゃべり。
楽しい時はあっという間に過ぎてしまうものだ。一度だけで諦めるつもりだったのに次の約束をしてしまった。次で最後だ…本当に。




