仮面舞踏会3
押された勢いで少し前のめりになったレンが驚いて振り返ると額を抑えてフロウが呻いていた。
「いた、たたたた。私ったら足を踏んだり背中をどついたり…ごめんなさい…お恥ずかしいわ」
レナードはクスっと笑ってフロウの頬に手を当て、額を確認した。
暗くてよく見えなかったため少し顔を近づけてしまった。
「僕の背中よりあなたの額がしん…」
フロウの額が心配だった。だが問題なのは額ではなく二人の顔の距離だった。
一瞬時が止まったようだった。
花火が上がるたびに、色とりどりの明かりに照らされる仮面と仮面。花火が打ちあがる音だけが、時が流れているのを証明していた。
レナードはハッと我に返りフロウの頬から手を離した。フロウは恥ずかしさに俯いている。
しまった!いつもの調子で気軽に手を触れてしまった。
「し、失礼しました。さあ掛けて、軽く食べながら花火を見ましょう」
レンはドキドキしている心臓を押さえ付け、椅子を引いてフロウを座らせた。
「はい、それにしてもここは…特等席ですね」
(びっくりした。キスされるかと思ったわ…)
フロウの心臓の鼓動も明らかに早かった。
また楽しくおしゃべりをしながら軽食をつまみ、花火を見た。
だが花火も終わりに近づいた頃、隣の柱越しに
「だめよ、こんな所で…あん…だめぇ」
「大丈夫、柱があるから見えないよ」
と、声が聞こえてきた。
「…中に、戻りましょうか」
レンは立ち上がった。
「それがいいと思います」
フロウもすぐに立ち上がり、今度は敷居に気を付けながら図書室へ戻った。
連続して大きな花火が上がり始めた。そろそろフィナーレだ。
「花火が終わったら舞踏会はお開きですわね」
フロウの声はどこか寂しそうだった。
(そうだ、この楽しい時間が終わってしまう)
明日からはまた兄と妹として顔を合わせなければいけない。
もう少しだけ、もう少しだけこうしていたい…そう思っているとデスクの上に無造作に置かれたチラシに目が行った。
『オペラ座の惨劇・50回記念公演~最終日アフターパーティーは仮面をつけて行います』
これだ!
世界的に有名な演劇で、仮面を付けた連続殺人鬼が実はオペラ座の有名歌手だったという話だ。
この殺人鬼にあやかっての仮面パーティーなのだろう。
「あの!これに行きませんか?!」チラシを引っ掴みフロウに見せた。
「これは…有名な演劇ですね」
演劇を一緒に見に行こうというのだろうか?でもそれだと顔がバレてしまう…フロウが言葉に詰まっていると
「アフターパーティーだけの参加でもいいそうです。僕もこの日は夜しか時間が取れないのでパーティー会場でまたお会いできませんか?」
「夜でしたら私も都合がつくと思います。でも会場で・・お互いを見つけられるかしら?」
「大丈夫、僕はあなたを見つけられますよ」
レンはにっこり笑った。